アイドルのモジュール化に関する一考察

齊藤 豊

8月24、25日の両日にAKB48グループの所属アイドル約250名が出演した東京ドーム公演を観て頭に浮かんだ事なのだが、AKB48グループはアイドルのモジュール化を完成させた、と考える事ができる。従来のアイドルは、スタッフのすり合わせにより作り出された存在であり、代替不能であった。例えば、キャンデーズやスピード、ももいろクローバーZのメンバーが怪我や病気になったときはそのメンバーの代理はおらず、残りの少ないメンバーで仕事をこなすのが通例であった。しかし、AKB48グループ所属アイドルは代替可能な存在である。誰かが休めば代わりが入る仕組みを持っている。


モジュール化とは、経営学や経済学における概念のひとつで、アーキテクチャー(設計思想)とデザイン・ルールからなる共通基盤の上でデザイン・ルールを守って部品としてのモジュールを作成し、他のモジュールとインターフェースを介して結合し、一定の結果(完成品)を出す仕組みのことである。モジュールは、インプット、プロセス、アウトプットから構成される。インプットは情報の入力、プロセスは入力された情報を変化させること、アウトプットは、プロセスで変化した情報を出力する事になる。モジュール化はIBM PCの互換機路線などの製造業から広まり、ソフトウェア業に採用され、組織改革にも使われ、今、人材のモジュール化が起きている。アイドルのモジュール化は人材のモジュール化のひとつと捉える事ができる。

モジュール化におけるアーキテクチャーはルックアンドフィールに関する概念や設計理念、目的などから構成され、デザイン・ルールはインプット・アウトプット等のインターフェース仕様とどのように分業するかに関するルールから構成される。AKB48グループという共通基盤は、専用劇場をもつアイドル・グループと恋愛禁止というアーキテクチャーの上で、歌とダンスというインターフェース仕様と分業に関するデザイン・ルールを守ってアイドル・ビジネスを展開している。

AKB48グループに所属するアイドルは、自分に与えられた歌とダンスを覚え、チームで行う公演もしくはTV出演などを実施し、成果を出さなくてはいけない。AKB48グループのアンダー制度はTV出演や怪我・病気等で劇場公演を休むメンバーの代わりに他のメンバーが出演することだが、アンダーになるメンバーは公演を休むメンバーの歌とダンスができなくてはいけない。アンダーで成果を出せば、正規メンバーと入れ替わる事も可能になる。AKB48グループの所属アイドルは、デザイン・ルールを守ってパフォーマンスすることによって富と名声を手に入れている。しかし、彼女達は、代替可能な汎用的アイドルであり、アーキテクチャーやデザイン・ルールを破ったり、パフォーマンス能力が低かったりすれば、解雇や降格がある。

モジュール化におけるモジュールはアーキテクチャーとデザイン・ルールを守れば、モジュール内で何をしようと問題はない。アイドルのモジュール化においてモジュールであるAKB48所属アイドルは、アーキテクチャーとデザイン・ルールを守った上でファンにアピールを行い、人気を得なくては生き残れない。例えば、ダンスのキレがいい、歌がうまい、美しい、喋りがうまいなど、他のAKB48所属アイドルと差別化する機能を発揮しなくてはいけない。彼女達モジュール化したアイドルを組織し、運営する企業側は、モジュール入れ替えの権利を持っており、これはモジュール化したアイドルの生命与奪権になる。モジュール化したアイドルの候補生は無尽蔵と言えるほど沢山いて、基本スペックが年々高くなっている。運営側によるモジュールの使い捨てが可能な位、不均衡な需給状態となっている。

しかし、製造業などにおけるモジュール化と同じように経年によるアーキテクチャーとデザイン・ルールの劣化が、アイドルのモジュール化にも起きる。そこでイノベーションが必要となる。今のAKB48グループはまさにこの劣化が起きており、アーキテクチャーとデザイン・ルールを刷新しなくてはAKB48グループの将来がなくなる可能性がある。

以上みてきたようにサービス業のひとつであるアイドル・ビジネスにもモジュール化が適用され、現在、AKB48グループは圧倒的な強さを誇っている。製造業やソフトウェア業との違いは、アイドル・ビジネスのモジュールは人間そのものである、という点になる。感情を持っている人間という存在がモジュール化したアイドルとなる事により、財やサービスでは起きなかった問題が起きる。そして、アイドルの感情に購買者たるファンは左右される。この辺りのケアがアイドルのモジュール化の成否を決め、アイドル・ビジネスの利益を決めるのではないか、と考えられる。