食の「偽装」は法の「犠牲」 --- 松田 宗幸

2013年11月24日 15:23

食の「偽装」問題での連鎖報道は、法整備や税制が生みだした食文化による「犠牲」にも映る。日常生活で身近なビールを例に考えてみる。

純粋で深くコクのあるドイツビールは、昨今日本でも身近なものだが、このビールはドイツ人の伝統文化への拘りと社会成熟を端的に表している。ドイツにはバイエルン公ヴィルヘルム4世が1516年に制定した「ビール純粋法」という法律があり、大麦・酵母・ホップ・水以外を使用する事はドイツでは法で禁じられている。商業ベースで開発された副原料に米・とうもろこし・でんぷん・糖類・カラメルを使用する低コストの日本のビールはドイツならば製造段階で既に違法ということになる。


日本ではサッポロが主としてホップ100%使用のコクと爽やかさを共存させたビールを造っている。「2006年までにすべての麦芽とホップを協働契約栽培にする」と宣言したサッポロはドイツ連邦政府から「ドイツ連邦栄誉賞 金賞」を日本企業としてもドイツ国外のビール醸造メーカーとしても2008年初の受賞を受ける。またASEANなどではワンランク上の価格で販売されている黒ラベルは、現地では最強ブランドの一つにもなっている。観光でASEANを訪問する欧州の方々は受賞についても品質についても良く知っており、サッポロを置く店をこぞって訪ねている。

日本のビールにかかる税率は、国際的に見て突出し高率・高額で、アメリカと比較すると約14倍、ドイツ・フランスと比較すると約15倍。これが副原料にホップ以外を使用させている大きな要因である。欧米では、贅沢品の蒸留酒には高い税率、日常品のビールやワインなどの醸造酒には低い税率をかけるのが一般的だが、日本はもっも家庭で良く飲まれるビールに最も高い税率を課せられ、それが小売価格に転嫁されており、日本で飲むビールは低コストのはずなのだが世界一高い。

デフレ進行とメーカーの利益上の苦肉の策で生まれた第3のビール商品は、メーカーから見ればビールではなく偽装にはあたらない。しかし消費者側からみれば価格を意識したビールの代替商品としての購買意識が強い。もしもビールの大麦・酵母・ホップ・水以外を使用することを禁じた飲料と法整備されていたと仮定したならば、やや偽装的な飲料製品でもあり、ビールに限らず代替商品の消費現象は法が生んできた日本の食文化の産物ともいえる。

ビール類販売数量国内ではキリン・アサヒ・サントリーが順位を独占しているが、サッポロは一つも入っていない。サッポログループ全体の事業構造そのものも、恵比寿ガーデンプレイスなど不動産事業による利益が酒類販売による利益を圧倒、本業よりも不動産業で稼いでしまっている。その為、サッポロはビール税の安い海外に、本物であるべきビールの活路を見出している。

本物の食育や純粋な味覚の追求よりも、原価と雑味の変容の追求に大方の食に携わる企業は向かわざるを得なくなる。食の偽装問題は国内の食生活スタイルの変遷から生まれ、それは国の財源安定を目的とした政策の「犠牲」によるものの一側面であるかもしれない。まっとうなモノ造りをする企業が浮かばれていないという市場相反が生まれているのが国内の食の現状でもあり、正しい表記でおとしどころをはかるよりも、法整備や税制のあり方を見直すほうが正しい成熟社会に接続していくだろう。

松田 宗幸 Muneyuki Matsuda
コンサルティング/ビジネスサービス
株式会社 M ホールディングス(M HOLDINGS CO.,LTD.)代表取締役 CEO 
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