勝負ネクタイに見る小泉マジックの健在

新田 哲史

ある下着会社の調査だと、女性の勝負下着の色は、東がピンクで西は黒という傾向があるんだという、まったく都知事選と無関係な情報から書き出す私。。。ついに細川・小泉連合軍が挙兵ということで、ニュースの映像をみて印象的だったことが2つある。まずは小泉さんの勝負下……じゃなかった、勝負ネクタイの色だ。


●勝負色あれこれ
政界から引退しても勝負勘、PR巧者ぶりは全く衰えていない。テレビ政治の申し子といえる小泉さん。一挙手一投足すべてが周到に計算されたメディア戦術の体現だ。きのうテレビを観た直後に僕がツイートしたら、何人かがRTしてくれたけど、小泉さんが緑のネクタイをするのは珍しい。緑は「脱原発」を象徴するカラー。細川さんとのツーショットは当面繰り返し放送されるので早い段階から視聴者の“刷り込み”になる。そのうちワイドショーで「あの緑のネクタイはどこで買ったの?」的な報道が始まれば、もう思惑通りだろう。

▼両元首相の会見を報じる産経ニュース。小泉氏の緑のネクタイが目を引く
140115小泉1

なお小泉さんの勝負所の色使いといえば、郵政解散時の官邸での記者会見だ。総理会見時に特別に用意される深紅の幕を背に力強く郵政民営化への信念を語ったことで情熱的なムードを駆り立てた。それでいてネクタイは水色と、色彩心理学的には冷静さや知性の意味合いがある(らしいです)カラーを選択。熱いハートとクールな頭脳を持つリーダー像をブラウン管の中で(当時は地デジ普及前)作り出した。

▼小泉総理の郵政解散時の記者会見(2005年8月、官邸HPより)
140115小泉2

もっとも、どの政治家にも有効な方策ではないことは付け加えておく。麻生さんは2009年の解散時の記者会見でこれらの演出(赤い幕、水色ネクタイ)を踏襲したが、目算が雲散霧消したのは周知のとおりだ。

●郵政解散のチーズ会見を彷彿
2つ目は、“夢のツーショット”を披露するタイミング。その絶妙さも目を引いた。
昨日のほかにも数日以内に行う正式な記者会見、そして告示日でお披露目する選択肢もあっただろう。しかし告示日以後は、メディア内部で主要候補者間の露出度を均衡させる自主規制が働くのでインパクトが最も弱い。今回は初っ端からのインパクトが必要だった。ツーショットを見せつけることで有権者の一部が抱いていたであろう、「本当に小泉さんが細川さんと組むのだろうか」という疑心を打ち消す効果があり、安倍さん以下、政権与党に対して不退転の戦闘意志を示して緒戦から威圧しようという意味も大きくなるわけだ。

室内で整った正式の会見場という選択肢はどうか。悪くはないが、ホテルの庭先で“最後の会談”を終えて出てきた直後に囲み取材を受けたほうがライブ感を生み取材陣をずっと高揚させる。もともと2人の間で出馬することは事前に決まっていて、あれはメディア用の儀式であり、演出にしか思えなかった(作為でなかったとしても結果的に劇的効果を高めている)。郵政解散の直前、森元首相が解散を“止めきれず”、小泉さんから振舞われたつまみをネタに「干からびたチーズとビールしか出なかった」とぼやいた場面を彷彿とさせる。あれは2人の間の演出だったことは後日、森さんが「漫画」と自称しながら明かしているが、お仕着せ的な記者会見などよりもライブ感、ストーリー性があったことでメディア、有権者の興味を引き付けてしまった。

●テレビ選挙展開か
まさかとは思うものの、ツーショットを披露した時間帯すら計算されていた可能性が無きにしも非ず。各紙の写真撮影時刻は午後0時48~49分ごろと、新聞では夕刊の最終版に記事を突っ込むのにやっとで記者たちは冷静な解説原稿は書く余裕はない。しかも舛添さんの出馬表明会見は午後2時半からなので紙面の“占拠”に成功する(ネットをやらない高齢者へのPRになる)。

▼夕刊“ジャック”に成功(1月14日・日経新聞)
140115小泉3

なによりもターゲットにしたのが14時台の情報番組だったはず。まんまと引っかかったのが「ミヤネ屋」(読売テレビ、日本テレビ系)だ。取れたての会見映像を流すばかりか小泉さんの過去のビデオを流す際には、XJapanのBGM付きだった(爆笑)その後も舛添さんの出馬会見はかすんでしまった印象である。こうなると、次はどのようなキャッチコピーを打ち出してくるのだろうか。なお、郵政選挙の際の「改革を止めるな」は、武部幹事長と電通が用意した2つの案から小泉総理自身が選んだコピーだった(※参考・大下英治「権力奪取とPR戦争」)。

そんなこんなで、既視感が漂いまくるものの、「郵政民営化」を問うた総選挙(2005年)以後、「政権交代」(09年総選挙)、「大阪都構想」(11年大阪市長選)、「アベノミクス」(12年総選挙)――といった具合にテレビが注目する大型選挙は、アジェンダを設定した陣営が勝利してきた。今回も目立った争点が無かったはずの都知事選で、「脱原発」というお題を掲げた細川・小泉両陣営。滑り出しとしては「満点」だが、これまでと違うのはネット選挙活動が解禁されたことだ。今までにないネガティブキャンペーンに直面するリスクは小さくない。

色んな意味で目が離せないメディア選挙になりそうです。
そんなところで、ちゃおー(^-^ゞ
新田 哲史
Q branch
広報コンサルタント/コラムニスト
個人ブログ