東京の最大のリスクは直下型地震だ

池田 信夫

細川氏の記者会見であきれたのは、次の問答だ。

--都知事選では、脱原発が優先するのか
「原発は、都民の生命と財産に関わる問題。大きな事故が起きれば、憲法の問題などもみんな吹き飛んでしまう。最優先にならざるを得ない」

--災害対策も重要で同列に扱うべきだと思うが
「災害対策は災害対策。それよりも原発事故の方がはるかに影響力がある」


いうまでもないが、東京に原発はない。もっとも近い静岡県の浜岡原発でも、距離は200km程度で福島第一と大して変わらない。「大きな事故が起きれば、憲法の問題などもみんな吹き飛んでしまう」などという話はナンセンスで、国連科学委員会も報告したように、福島事故の健康被害は無視してよい。浜岡は何重にも津波対策をしたので、東海地震が起こったとしても炉心溶融は起こらない。

東京都民の直面している最大のリスクは、首都直下型地震である。これはよく関東大震災と混同されるが、ああいうプレート境界型の巨大地震は、関東地方では200~300年に1度で、今世紀中はないと考えられている。問題はマグニチュード7クラスの直下型地震で、いつ起こっても不思議ではない。地震のエネルギーは小さいが、東京の直下で起こると阪神大震災のように大きな被害が出る。

キャプチャ

有名なのは1855年の安政江戸地震で、その後も数十年に1度、関東地方のどこかで起こっているが、1924年の丹沢地震以来、長い空白期が続いている。昨年12月に発表された新しい被害想定では、今後30年以内に70%の確率で直下型地震が起こると予想した。その被害は、次のように東日本大震災より大きい。

 ・全壊家屋:17万5000棟
 ・焼失家屋:41万2000棟
 ・死者:2万3000人
 ・経済被害:95兆円

東京都が備えるべきなのは地震そのものであって、原発事故などの2次災害ではない。メディアは「どの候補も大同小異だ」というが、上のように細川氏は明らかにやる気がない。他方、田母神氏は出馬の動機に「首都直下型地震における自衛隊との連携」をあげた。阪神大震災でも東日本大震災でも、自衛隊との連携のまずさで失う必要のない人命が失われた。事故後の危機管理を考えても、細川氏がもし都知事になったら、震災のときの菅内閣の悪夢が再現されるだろう。

あなたが都民だとすれば、死者2万3000人ということは、あなたが死ぬ確率は1/500である。このリスクを高いとみるか大したことないとみるかは人それぞれだが、原発事故より「はるかに影響力がある」ことは明らかだ。都政にとって「原発ゼロ」なんて無意味だが、災害対策は最優先の課題である。