明らかにたくましくなったパナソニックの企業体質 --- 岡本 裕明

アゴラ

パナソニック、日本の家電の代表的企業でソニーやシャープと共に一般消費者にはもっとも親しみある会社であります。一方で2012年3月期に7000億円以上の赤字を計上し、ソニー、シャープとともにその先行きが危ぶまれました。そして三社とも当時、社長が交代し、新たなる競争が始まったわけです。

同社が昔「松下」の社名であったころ、陰で「マネシタ」と言われていたのは他社のアイディアを改善して商品化する商売の仕組みがうまかったことからかもしれません。つまり、ソニーのように世界初の商品を開発する企業マインドに対して儲けることに徹していた、とも言えます。だからこそ、もう一つの陰の名前が「松下銀行」だったわけです。


そんな会社が昨年夏ぐらいからライバルのソニーやシャープに明らかに差をつけ始めました。それはビジネスの構造改革にまい進し、結果が出たということかと思います。汐留の不動産売却、富士通とシステムLSI事業統合、確定拠出年金の導入などを含め、対策が矢継ぎ早に出たうえにパナソニックヘルスケアの過半の株式を売却し、なりふり構わぬ事業整理を行ったことが大きかったのでしょう。

例えば同時期にソニーはサードポイントから同社のエンターテインメント部門を分離上場させるよう意見されたものの平井社長はそれを最終的に受け入れませんでした。ソニーのセグメント別の利益を見れば金融が稼ぎ頭でエンターテインメントがそれをサポート、エレキ(電機)が足を引っ張るという構図はこの数年変っていません。そしてソニーは常にそれをテレビのせいにしているのですが、社内の体質に問題があることは数多くの寄稿、書籍、記事がそれを指摘しています。

つまり、変れるかどうか、というのがそのキーであったのでしょう。

変わると言ってもパナソニックには連結ベースで従業員は28万人もいる会社です。そのかじ取りは容易ではないですし、そう簡単に方向転換ができるわけでもありません。その社内広報で「世界一の山に登るのは他の企業がやればいい。パナソニックがやるべきことは新しい山を作ることだ」「変化に挑戦するからこそ苦悩があり、変化を継続するからこそ発見がある」(日経ビジネスより)といった意見が自然と出てきているところからいわゆる体質改善されつつあるのかと思います。

また、津賀一宏社長の方向はBtoCからBtoBへのシフト。だから自動車関連とか住宅関連の事業がめっきり太くなりました。一般消費者向けプロダクトの最大の欠陥は相手にする卸、量販店が多いうえにその値引き要請は販売量とともに非常に厳しいものがあるということでしょう。私は何年も前に日本企業が値引き圧力から脱したいなら海外に行け、ということを指摘したのですが、いわゆる法人向けも理不尽な値引き要請というより法人がパナソニックのその製品を使いたいか、というむしろ指名型の購入に展開しやすいメリットがあるのです。そして、他社とは違う何かがあれば価格が他社より10%高くてもその価値そのものを評価してもらえやすいわけですから均一的な価格競争になりにくいことは事実でしょう。

パナソニックがBtoBにシフトする以上、同社が必要なのは他社が追随できない新しい商品と大量納入による価格競争力をつけることです。

日本の電機メーカーは最早沈没したといった記事も散見するのですが、それは大きな間違いです。一般消費者向けプロダクトについては確かに競合も激しく厳しいものの日立、東芝、三菱の重電各社は構造改革をさらに進めていますし、村田製作所のようにスマホを作るのにこの会社がなければ絶対に無理、といった技術を持った目立たないが大きな会社は両手の数では全く足りない程あるのです。

一方、同社は日本の会社では唯一のオリンピックの正式スポンサー。そういう意味で日本を代表する会社であり続けるでしょうし、同社が仮にBtoBに大きく舵を取ったとしても同社の製品はやはり、多くの日本の家庭の中に必ず存在し続けることになるでしょう。

企業経営とは世の中の変化に対してどれだけ先読みし、先手を打つかにかかっています。その読み合いの戦いという意味ではソニー、シャープとの横一線の戦いはパナソニックが明らかに独走態勢に入ったともいえるかもしれません。最終的には売上10兆円企業を目指すということですが、それよりも私としては利益を5000億円にもっていく体質を強化していただきたいと思います。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年3月29日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。