なぜプーチン氏を擁護するのか --- 長谷川 良

アゴラ

ゲアハルト・シュレーダー元独首相(69歳、首相任期1998年10月~2005年11月)はクリミア半島の独立を問う住民投票実施前、欧州連合(EU)のウクライナ政策を批判し、「EUはクリミア半島の危機を煽っている」と批判し、間接的にロシアのプーチン大統領を支持した。

元首相のプーチン氏支持は不思議ではない。プーチン氏の政治顧問のような立場であり、ロシアのガスプロム子会社の役員などを務める元首相は過去、機会ある度にロシアを擁護してきたからだ。


シュレーダー氏のプーチン擁護をもう少し聞いてみよう。

「EUはクリミア半島の地勢学的な状況への理解に欠けている、ウクライナは文化的に分断されてきた国だ」と指摘。具体的には、「欧州はウクライナに、欧州を取るかロシアを選ぶかの2者択一を強要してきた。EUは本来、文化的、歴史的に分断されたウクライナには両路線を提示すべきだった。すなわち、EUはウクライナに準加盟協定を締結する一方、ロシアとは関税同盟を結ぶといった解決策を提示すべきだった」という。

シュレーダー氏は「ロシアは確かにウクライナの主権を蹂躙した」と認める一方、「自分が首相時代、北大西洋条約機構(NATO)は国連安保理決議なくしてセルビアに軍事攻撃をしたことがあった。あれも明らかに主権蹂躙に当たる」と述べ、欧米側はロシアを安易に主権蹂躙と批判できる立場でないと釘をさしている。

ここにきてもう1人の元独首相がプーチン氏を擁護し出した。ヘルムート・シュミット元首相(95歳、首相任期1974年~82年)はプーチン氏のクリミア政策に理解を示す。同氏は政界から身を引いた後、高級週刊新聞「ディ・ツァイト」の発行人であり、90歳を超えた現在もドイツの最高知識人の一人として尊敬されている人物だ。

シュミット氏は欧米諸国の対ロシア制裁について「無意味なことだ。制裁はロシアだけではなく欧米諸国にも影響を及ぼす。ウクライナ情勢は危険だが、その主因は西側にある。西側は興奮し過ぎている」と言い切っている。そしてロシアをG8から追放したことも厳しく批判した。
 
シュミット元首相はプーチン氏がクリミア半島を併合させたことに対し、「ロシアは国際法を違反したが、世界では過去、国際法はなんども蹂躙されている」と述べ、シュレーダー氏と同じ論理を展開し、プーチン氏に理解を示した。同氏によれば、「ウクライナは独立国家だが、民族国家ではない」というのだ。

シュレーダー氏のプーチン擁護発言に対しては無視してきた同国の野党指導者たちもシュミット元首相の発言に対しては反論している。

ドイツ野党「緑の党」は「問題は主権尊重という国際法の順守であり、論理の問題ではない。プーチン氏は明らかに国際法を違反している」と主張している(独週刊誌シュピーゲル電子版)。ただし、ドイツ左翼党のギジ連邦議会共同議員団長はツイッターでシュミット氏の発言を評価し、「メルケル首相は元首相の発言を無視してはならない」と述べている、といった具合だ。

メルケル第3次連立政権はキリスト教民主同盟。キリスト教社会同盟と社会民主党の大連立政権だ、社民党出身のシュタインマイアー外相はウクライナ問題ではロシアのクリミア半島併合を厳しく批判しているが、元首相のプーチン擁護発言に対してはメルケル政権関係者から批判めいた声は聞かれない。

ロシアのクリミア併合を厳しく批判する米、英、ポーランド、そしてバルト3国とは異なり、ロシアと経済関係が深いEUの盟主ドイツは対ロ経済制裁に対して消極的だ。ひょっとしたら、2人の元独首相のプーチン擁護発言は、現職でない気楽さもあって、ドイツの国益を代弁しているのかもしれない。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年3月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。