ユニクロが、約3万人のパートタイマーやアルバイトのうち、短期アルバイトを除く約1万6000人を正社員に転換する計画という。
【特報】ユニクロ、パートとアルバイト1万6000人を正社員化(日経ビジネスオンライン)
これまで、小売業や外食産業は、非正規社員比率を高めることで人件費の抑制を図り、デフレ時代を生き抜いてきた。その結果、大手スーパーで8割、マクドナルドやディズニーランドでは9割といわれる非正規社員比率となって表れている。
今回のユニクロの方針は、一見すると、この流れから逆行しているように見える。
しかし、ファーストリテイリングほどの会社が、単に人件費を高騰させ、競争力を落とすようなことはしない。
事実、パートタイマーやアルバイトは、「勤務地限定・正社員」として登用するという。すると勤務地限定社員制度の中身が重要となる。
非正規社員といっても、東京都内だと、時給1,000円を超えることも珍しくない。フルタイムだと、月160~170時間程度なので、16~17万円。賞与は出ないにしても、年収200万円程度。一方、店長を除く店舗正社員の平均年収は、おそらく350~400万円程度ではないか。
すると、勤務地限定正社員は、200万円から350万円の間の年収ということになる。
それが、200万円に近いのか、350万円に近いのか。もし、200万円に近ければ、さほど人件費は上がらない。実際には、月収水準はあまり変わらず、賞与部分が上乗せされるしくみのようだ。退職金なども入れると、年間にして1人当たり30~50万円程度の人件費増ではないだろうか。
これで、景気回復傾向により採用しづらくなっている販売職に対して、意欲の高い優秀な人材が集まってくれるなら、十分に勝算ありという判断だろう。とりわけ、東京や名古屋地区は、店舗販売・接客職の非正規社員の採用が極めて難しくなっている。
そこで、いち早く「正社員登用」を打ち出すことで、他社の店舗人材に対してユニクロに対する興味を喚起することができる。正社員雇用を希望する非正規社員が、それだけ多いということだ。
「それなら、他社も追随すればいいじゃないか」と思われるかもしれないが、利益水準の低い他の小売・外食産業にはなかなか真似できない。収益力の高いファーストリテイリングだからこそできる芸当といえる。
すなわち、先行して実施することに意味があるのだ。しかも、追随する企業が少なければ少ないほど、この狙いは成功する可能性が高まる。
山口 俊一
株式会社新経営サービス
人事戦略研究所 所長
人事コンサルタント 山口俊一の “視点”