米国が再び欧州に戻ってきた --- 長谷川 良

アゴラ

ウクライナ南部クリミア自治共和国のロシア併合は、終焉したはずの冷戦を再び目覚めさせたといわれる。気の早いメディアは“第2の冷戦時代の到来”とはしゃいでいる。

ジュネーブで4月17日開催された米国、ロシア、欧州連合(EU)、ウクライナの4カ国協議で一応、軍事衝突を回避する処置をとることで合意したが、合意内容が実際に履行されるかは不明だ。ちょっとした衝突から大戦に発展した第1次世界大戦を想起するまでもない。


ウクライナ危機は具体的には2つの大きな変化をもたらしている。まず、冷戦終焉後、存続の価値が薄れてきていた北大西洋条約機構(NATO)が復活してきたことだ。

今年9月に退任予定のラスムセン事務総長は、「ロシアのクリミア自治共和国の併合は主権蹂躙であり、国際法を蹂躙する」と主張し、ロシアに軍事的対応も辞さない強硬姿勢を表明している。NATO事務総長の発言が世界のメディアの注目を浴びるのは久しぶりのことだ。

NATOはロシアへの対抗措置として東欧の防衛強化に乗り出してきた。冷戦時代に苦い体験を持つバルト3国やポーランドはNATO軍の常駐化を要請するなど、NATO軍の価値が加盟国の間で見直されてきたわけだ。

2つ目の変化は米国の関心が再び欧州に戻ってきたことだ。オバマ大統領は今月23日から日本、韓国、マレーシア、フィリピンの4カ国を訪問するなど、アジア重視の外交をこれまで展開させてきたが、ウクライナ紛争が生じたことで、米国の関心が再び欧州に引き戻されてきたわけだ。

外交で弱腰が目立ったオバマ大統領はロシアのクリミア併合後、ロシアに対して強い警告を発する一方、欧州の同盟国との連携を深めてきている。強い米国の再登場だ。

米国は3月、バルト諸国上空の警戒強化のためF─15戦闘機をリトアニアに派遣し、ポーランドにはF─16戦闘爆撃機12機と部隊300人を展開して軍事演習を実施したばかりだ。米紙ワシントン・ポスト18日付電子版によると、米国とポーランドは来週、米地上部隊をポーランドに駐留させるという。

以上、ウクライナ危機はNATOを復活させ、米国の欧州への関心を再び呼び起こす結果となっている。プーチン大統領のクリミア併合が払った代価ともいえるだろう。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年4月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。