大塚家具に無くて渋谷区長選にある「委ねる力」

2015年04月22日 07:00

どうも新田です。今回の渋谷区長選、事はローカル選挙とはいえ、いまの日本全体に共通する要素や象徴するような現象があって連日ヲチしているわけですが、一番興味を持ったのは、現区長の桑原敏武さんがなぜ、自民候補でも民主候補でもなく、完全無所属の長谷部健さんを後継指名したのかということです。これは長谷部さんを支持するかどうかを抜きに、地方政治の常識を少しでもご存じの人なら「ありえねー」と思う状況ですよ。


桑原ー長谷部
■“首長スペック”的にはフツーな現区長
というのも、桑原さんのプロフィールを見ると。。。

慶応義塾大学法学部卒業
渋谷区教育委員会社会教育部長
渋谷区企画部長
渋谷区総務部長
渋谷区助役
渋谷区長に就任(平成15年4月~)
(特別区長会サイトより)

まー、「首長スペック」的には典型的な役人上がり。前回の選挙では自民・公明推薦で出馬、3期を務められるという、一見すると、どこの地方自治体にもあるようなフツーのスペックに分類されます。そして、渋谷の場合はちょっと違いますが、多くの自治体議会では、共産やトリッキーな無所属を除いて「オール与党」となって、フツー首長の区政運営を支えるというのが定番です。

■地方政界の「常識」から外れた後継指名
そんなフツー首長の交代も、同じく自民あたりが用意している副首長とかの役人上がりか、地方議員を後継指名することが通例です。ところが、典型的なフツースペックの桑原さんが、引退間際になって突然、本命の自民系候補ではなく、無所属の長谷部さんを推したわけですから、地方政界の「お決まりパターン」から明らかに外れているわけです。

そこまで長谷部さんに賭ける思いは何だったんでしょうか。心境の一端を告示日の出陣式の演説から見ることができます。現場に取材に行ったのですが、桑原さんは、グリーンバードやシブヤ大学等の斬新な提案をしてきた長谷部さんの活動を振り返った上で、「区民の悩みや苦しみ、喜びに応えるためにやってきた、私は彼以外に候補はあり得ない」と断言。民主党や共産党に対しては、「口をひらけば『情報公開、情報公開』。しかし区政に対して何をやるんですかということへの答えがなかなか無い」と指摘。さらに、パートナーシップ条例に「拙速」と反対した自民党に対しては、「いま苦しんでいる性マイノリティの人のために今立ち上がらなければならないのではないか」と批判されました。

■区長の心境を勝手に想像し、反省した
もちろん桑原区政の問題点はいろいろ指摘されてますよ。長谷部さんも100%容認しているわけではない。ただ、ここから先は想像ですが、発言から感じるのは、高度成長期から60年近く勤めてきた「行政プロパー」が感じる既存政党への不満、つまり、各政党の議員さんたちが、党利党略的で、実効性も新しさもある政策をあまり打ち出してこなかったことに、すごいストレスを溜めていたんじゃないでしょうか。

桑原さんって心底、渋谷の街をすごく愛していると思うんですよ。
そして少しでも住みよい街づくりを目指すだけでなく、渋谷と言う日本全国の流行の発信地に相応しいアイデアを心の底では求めていた。しかし地味な行政マンとしての立場では、斬新な手法も人脈もない。悶々としていたところで12年前、博報堂出身で、面白いことを提案する一人の若手議員が出現する。「自分がやりたかったのはこれだ!」と心を打った。
渋谷フリー
もちろん当初はバックボーンも価値観も違い過ぎたでしょう。長谷部さんも行政プロパー区長に、12年をかけて説得なり提案なり地道にコミュニケーションをすることでアイデアを実現してきたわけです。

そして桑原さんは長谷部さんを認めるようになってきた。とうとう、ご自身の引退にあたり、最後は従来のシガラミではなく、“夢”に賭けているんじゃないでしょうか。

今回の桑原区長の行動を見ていると、ワタシメは、年齢や経歴だけで人を判断してはいけない、と反省しました。都知事選の後、家入さんが区長選候補者擁立にヤル気があった頃、「役所プロパーのシニア区長はダメなヤツ」だと仲間とレッテルを貼っていた自分が恥ずかしい。やり方次第でシニアは若者と歩み寄れるし、変わる可能性はあるんですよ。そもそもマーケティングの世界ではコミュニケーションを通じて相手の「態度変容」を目指すわけで、PRの仕事の本分を思い起こさせられました。

■対照的だった大塚家具会長
「桑原-長谷部」の関係性から見えるのは、変化を目指すビジョンの一致と、価値観の違いを乗り越えるための「歩み寄り」。これ、大げさじゃなくて、旧態依然として硬直化した業界に新風を吹かせていくためのヒントがあると思うんですよ。

時代の変化に合わせた対応が求められるのに、旧世代は、日本を経済大国に押し上げた成功体験と誇りがあって変化を許さない。変化を求める若者は「老害」批判をし、多数派の旧世代の圧力に負け、結局は変わらないことの繰り返し。あるいは時たま、若い世代が先進的な手法や外資の力を借りて勝利を収めても、なんとなく対立の火種を残しているようなオチだったりします。

最近だと大塚家具のお家騒動が典型例。家具業界がIKEAやニトリの台頭等でトレンドが変化する中、既存の会員制方式にこだわった会長のお父さんは、会員制を辞め中間層マーケ拡充が持論の久美子社長を一度は追放。まさに「老害力」を発揮したですが、大塚家具ではそこで終わらず、プロキシファイトに発展。こうした世代間のハルマゲドンは、遺恨も火種も後に抱えてしまいます。

■シニアが持つべきは「老害力」ではなく「委ねる力」
旧世代と若い世代が、渋谷区政のように歩み寄れるかどうかは、まずはマジョリティーであるシニアに若者を「認める力」があるかどうか。そして次代へ委ねる勇気と決断力、つまり「委ねる力」があって新しい時代を築くストーリーが完成します

ごく一部に「老害力」を認めるマニアックな意見もありますが(苦笑)、それでは社会は変わりません。

近年、経営者の高齢化を背景に、「後継者不在」を理由に廃業する中小企業が多く、ビジネス誌でも「事業継承」が経営課題に取り上げられていますね。その多くは人材が払底してしまっているんでしょうが、人材が残っているうちに経営者が「委ねる力」を発揮すれば、事業は継承され、生き残りの経営改革もしてくれる可能性もあるんじゃないでしょうか。ちなみに、経営者が高齢な企業ほど、経常利益の状況が「減少傾向」というデータもありますんで、適切なタイミングで「委ねる力」を発揮したいところです。

経営状況
さて渋谷区長選は後半戦へ。村上さんを追い上げる長谷部さんへの、桑原さんの「委ねる力」は完遂するんでしょうか。ではでは。

新田 哲史
ソーシャルアナリスト/企業広報アドバイザー
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新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長/NPO法人ICPF 情報通信政策フォーラム理事

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