米最高裁の同性婚判決に関する一考察 --- 岩瀬 大輔

2015年07月01日 15:46

同性婚を認めない州法を違憲とした米国最高裁判決が話題になり、Facebook が虹色のプロフィール写真で埋め尽くされています。生命保険についても、現在は同性のパートナーを保険金受取人として認めることが難しいという環境があることから、この判決について少し勉強してみました。

まず、5対4の僅差で多数意見となった判決主文は、その文学的(いささか情緒的?)な表現が話題となりました。私自身、その文章に心を動かされなかったといっては嘘になります。多くの人に読んでもらいたいと思い、5人の裁判官の想いを結晶化させたむすびの文章を訳してみました。

「結婚ほど深遠な人と人との結びつきはない。それは結婚が愛、忠節、献身、自己犠牲、そして家族のもっとも崇高な理想を体現するからだ。婚姻関係を結んだふたりの人間は、ひとりでいたころのじぶんとはちがう、ずっと大きな存在になることができる。そして、本件原告の何名かが身をもって示しているように、結婚は死を超えてもなお続きうる愛情をはらむものでもある。同性婚を訴えるこれらの男性や女性が結婚制度を軽視しているというのは誤っている。むしろ逆だ。彼らは結婚に対して敬愛の念をもっている、みずからそれを実現したいと願うほどの、深い敬意の念を。彼らの希望は、文明社会のもっとも古い制度からしめだされ、孤独で生きることを余儀なくされないことにある。彼らは、法の前で等しく尊厳を認められることを求めている。わが合衆国憲法は、彼らにその権利を保障している。
第六区巡回控訴裁判所の判決を破棄する。」

“No union is more profound than marriage, for it embodies the highest ideals of love, fidelity, devotion, sacrifice, and family. In forming a marital union, two people become something greater than once they were. As some of the petitioners in these cases demonstrate, marriage embodies a love that may endure even past death. It would misunderstand these men and women to say they disrespect the idea of marriage. Their plea is that they do respect it, respect it so deeply that they seek to find its fulfillment for themselves. Their hope is not to be condemned to live in loneliness, excluded from one of civilization’s oldest institutions. They ask for equal dignity in the eyes of the law. The Constitution grants them that right.

The judgment of the Court of Appeals for the Sixth Circuit is reversed.”

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しかし。

本稿の目的は同性婚判決を祝うことでも、この一節だけをご紹介することだけでもありません。反対意見も考察することで、本判決の真の意味合いについて理解を促すことにあります。

判決原文の多数意見および反対意見を読むと分かることは、本件で争われたのが本質的には「同性婚の是非」ではないことです。

論点は、「同性婚が合衆国憲法上認められている基本的人権であるのか?」「民主的な手続で選ばれていない裁判官によって構成される司法府が、どこまで立法府の権限(とこれまで考えられてきた婚姻制度)に立ち入ることができるのか?」という点です。

多数意見は、異なる人種間の婚姻や、収監中の人との婚姻を禁止する法律を違憲とした判例を引き合いに出し、同性婚が修正第14条で規定される実体的デュー・プロセス条項(Substantive Due Process Clause)、そして法の下の平等条項(Equal Protection)をたよりに、「同性婚が憲法上保護される基本的人権である」と判断しました。

前提となるのは、最高裁の役割に関する次のような考えです。

「不正義というのはえてして、同時代に生きる人間にはみえないことがある。権利章典と修正第14条を起草した先人たちは、自分たちがすべての面において「自由(liberty)」が意味することを理解しているとは考えず、将来の世代に対して、時代の変化によって変わりうる「自由(liberty)」を護りうるような仕組みを残した。新たな洞察によって、憲法上の中核的な保障とその時代の法体系の間に齟齬があることが明らかになったときには、自由が護られるような措置が取られなければならない。」(多数意見 p.11)

“The nature of injustice is that we may not always see it in our own times. The generations that wrote and ratified the Bill of Rights and the Fourteenth Amendement did not presume to know the extent of freedom in all of its dimensions, and so they entrusted to future generations a charter protecting the right of all person to enjoy liberty as we learn its meaning.  When new insight reveals discord between the
Constitution’s central protection and a received legal structure, a claim to liberty must be addressed.”

そして本判決では、結婚に関する社会的意味合いや認識が変わったいま、同性のパートナーと結婚する権利も、憲法上保護される人権であるとしています。

これに対して反対意見は、裁判所が果たすべき役割について伝統的、抑制的、保守的に考え、民主主義の議論(=立法的解決)に委ねられるべきとも考えられる事項について裁判所が介入することについて、慎重な姿勢を取ります。

憲法には同性婚をする権利について明記されていないが、多数意見は修正第14条のデュー・プロセス条項の「自由」がこの権利を内包するとする。合衆国はすべての人間が自由への不可侵な権利をもつという理念のもとで創られたが、自由は多義的な意味をもつ概念でもある。伝統的リベラル派にとっては、自由は現在政府によって規制される経済的な権利を含むかもしれない。社会民主主義者にとっては、それは各種の政府による給付を受ける権利を含むかもしれない。本日の多数意見にとっては、それはどうやらいささかポストモダン的な意味を与えているようだ。

選挙によって選ばれていない5人の最高裁判事が、みずからの自由に関する見解をすべてのアメリカ国民に押し付けることができないよう、最高裁判例ではデュー・プロセス条項の「自由」が「この国の歴史と伝統に深く根ざした」権利のみを保障すると理解すべき、とされている。そして、同性婚の権利がこのような歴史と伝統に深く根ざした権利とまではいえないことは明白である。(アリト判事 p.2)

The Constitution says nothing about a right to same-sex marriage, but the Court holds that the term “liberty” in the Due Process Clause of the Fourteenth Amendment encompasses this right. Our Nation was founded upon the principle that every person has the unalienable right to liberty, but liberty is a term of many meanings. For classical liberals, it may include economic rights now limited by government regulation. For social democrats, it may include the right to a variety of government benefits. For today’s majority, it has a distinctive postmodern meaning.

To prevent five unelected Justices from imposing their personal vision of liberty upon the American people, the Court has held that “liberty” under the Due Process Clause should be understood to protect only those rights that are “deeply rooted in this Nation’s history and tradition”. And it is beyond dispute that the right to same-sex marriage is not among those rights.

同性婚に賛成か反対かという立場はいったんさしおき、この見解に一定の説得力があることは否定できないのではないでしょうか。

反対意見のほとんどは、同性婚に対する賛否ではなく、今回、5対4という僅差で、司法府が本来立法府の権限と考えられる事項について、いわば強権を発動したことに対して警鐘を鳴らして、筆を置いています。

私たちの憲法は―その前の独立宣言と同様―ひとつのシンプルな真実を前提としていた。自由、そして尊厳は、国家による侵害から護られる権利であり、国家によって与えられるものではないということを。本日の判決はその真実を無視することになる。望んだ結果を急ぐあまりに、多数意見は実体的権利を規定する「デュー・プロセス」に誤った焦点をあて、本条項が保護する「自由」のもっとも正しい意味合いを無視し、合衆国が創られた基本理念を歪める。この判決は、合衆国憲法と私たちの社会に、将来予想しえない影響をもつだろう。私は敬意をもって、多数意見に反対する。(スカリア判事)

Our Constitution — like the Declaration of Independence before it — was predicated on a simple truth. One’s liberty, not to mention one’s dignity, was something to be shielded from — not provided by — the State. Today’s decision casts that truth aside. In its haste to reach a desired result, the majority misapplies a clause focused on “due process” to afford substantive rights, disregards the most plausible understanding of the “liberty” protected by that clause, and distorts the principles on which this Nation was founded. Its decision will have inestimable consequences for our Constitution and our society. I respectfully dissent.

もしあなたが同性婚に賛成する多くのアメリカ人の一人―自らが同性愛者かどうかにかかわらず―であれば、今日の判決を心から祝われるとよいでしょう。渇望した目的が達成されたことを。パートナーへのコミットメントを新しい形で表現できる機会を。新たに与えられたさまざま
な権利を。しかし、これがわが合衆国憲法のおかげだと思わないでほしい。憲法は、本件とはまったく関係がない。
私は敬意をもって、多数意見に反対します。(ロバーツ判事)

If you are among the many Americans — of whatever sexual orientation — who favor expanding same-sex marriage, by all means celebrate today’s decision. Celebrate the achievement of a desired goal. Celebrate the opportunity for a new expression of commitment to a partner. Celebrate the availability of new benefits. But do not celebrate the Constitution. It had nothing to do with it.

I respectfully dissent.

今回のニュースは、このような反対意見があることを十分に踏まえてはじめて、その本質的な意味合いを理解できるのではないでしょうか。そして、立法府が社会的要請に応えていないとも考えられる局面で司法府が果たすべき役割、という論点については、わが国でも「1人1票」裁判でも焦点があたったところであり、この判決から考えさせられる点は少なくありません。

日本とアメリカでは言うまでもなく憲法が異なりますが、このニュースはわが国における同性のパートナーに関する議論に、どのような影響を与えるのでしょうか。私たち生命保険会社も、社会の変化、時代の流れをよく見ながら、社会的使命を果たしていきたいと考えています。


編集部より:このブログは岩瀬大輔氏の「生命保険 立ち上げ日誌」2015年6月30日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方は岩瀬氏の公式ブログをご覧ください。


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