韓国に執拗に抗議される、産経記事の何が問題か?

2015年09月19日 00:25

8月31日の産経電子版に野口裕之記者が“米中二股 韓国が断ち切れぬ「民族の悪い遺産」”という記事を掲載するや否や、韓国各紙は一斉に産経非難の火蓋を切り、韓国外交部の報道官までが「歴史歪曲と歴史修正主義のDNAを持ち、歴史に対して厚顔無恥な主張を日常的に行う日本国内の特定人物とこれに関連した報道機関のとんでもない記事に対し、政府次元で論評する価値も感じられない」と感情をむき出しにして非難した。

これで1件落着かと思いきや、9月15日になると韓国の柳興洙駐日大使が産経新聞社を訪れ「この記事は、憤りを覚える内容で朴槿恵大統領や韓国国民を冒涜している」と、「政府次元で論評する価値もなかった筈の記事」の削除と謝罪を再度要求する執拗ぶりであった。

この韓国政府の行動は、セウォル号事故当時の朴大統領の男女関係の行跡に疑惑を提起した朝鮮日報の記事を産経に転載しただけで名誉毀損の疑いで告発され、起訴および出国禁止措置を受けた加藤前ソウル支局長事件とも重なり、韓国の“表現の自由”の限界をさらけ出してしまった観が強い。

日韓関係を巡る産経と韓国の対立は、論争というより下品な侮辱合戦が殆んどだが、今回の野口記者の記事は具体的な史実を挙げながら韓国外交の歴史的特殊性を指摘したもので、この歴史観に不満であれば、韓国は有史以来、千回も侵略を受けたがすべて撃退し、列強に迎合した事実などないと常日頃主張している韓国の知識人に反論の機会を与えるよう求めるのが筋で、政府が記事の取り消し処分を求める等と言う子供染みた事はするべきでなかった。

野口記者の記事で韓国の癇に障ったのは、記事全体の流れよりも「中国の抗日戦争勝利70年を記念した軍事パレードに朴大統領が出席することを朝鮮王朝時代から続く『事大主義』の顕著な例として取り上げた事と、韓国政府の外交DNAが清国、日本、ロシアなど海外列強のをコロコロと綱渡りして日本に存亡の危機をもたらした朝鮮時代にも、朴大統領のような女性の権力者がいたとして閔妃を引き合いに出して説明した事」が韓国の自尊心を痛く傷つけた為の様に思える。

確かに、野口記者は中々碩学な論客だが、保守と言うより右翼的嫌韓論者の横顔が色濃く「民族の悪い遺産」「韓国外交哀史」「清にすり寄り」「朝鮮半島倒錯史」などと言う不必要な挑発的で蔑視的な形容詞を濫用した事がことさらに相手を刺激した事は間違いなく、この様な言葉を控えておけば記事の国際的風格や信用を更に高めたと思うといささか残念に思える。

然し、産経の経営が韓国を侮蔑する言葉に興奮する読者層に支えられている事を考えると、産経が全国紙として認められないリスクを犯しても、罵詈雑言をやめる訳には行かない事もあり、産経の選択が難しい事も理解出来る。

とは言え、産経の熊坂社長が韓国大使の抗議に対し「記事は記者の自由な論評、評論であり、削除や謝罪をする考えはない。自由なジャーナリズムの表現は自由な社会を構成する要素のひとつだ」と回答した事は誠に適切であった。

それにしても、外国の新聞にこれだけ執拗に抗議する韓国の政府やマスコミが、朴槿恵大統領の実父の朴正煕元大統領が野口記者より厳しく韓国の悪癖を糾弾していた事実を知らない訳はない。

ウイキペデイアが、朴正煕元大統領の自著から拾った韓国の悪癖に対する厳しいコメントのいくつかを紹介すると:

「我が半万年の歴史は、一言で言って退嬰と粗雑と沈滞の連鎖史であった」
「姑息、怠惰、安逸、日和見主義に示される小が児病的な封建社会の一つの縮図に過ぎない」
「われわれが真に一大民族の中興を期するなら、まずどんなことがあっても、この歴史を改新しなければならない。このあらゆる悪の倉庫のようなわが歴史は、むしろ燃やして然るべきである」

と述べ、更に「韓民族の悪い遺産」として:
1事大主義 
2怠惰と不労働所得観念
3開拓精神の欠如 
4企業心の不足 
5悪性利己主義 
6名誉観念の欠如 
7健全な批判精神の欠如

等々を挙げている。

それでも、韓国政府は勿論、韓国メディアが朴正煕元大統領を「歴史歪曲と歴史修正主義のDNAを持ち、歴史に対して厚顔無恥な主張をした」と非難した話は聞いた事がないのは、論議の内容よりも、論者を天秤にかける事大主義の悪癖の結果だと考えると理解しやすい。

この様に、同じ事を言っても人によってこれだけ反応の異なる韓国の現実を見ると、「韓国に執拗に抗議される、産経記事の問題」は記事の内容ではなく、書き手へのいちゃもんにある事は間違いなく、これでは治す薬もない。     

然し、相手だけを非難する傾向は韓国に限らず、日本を含む多くの国にも共通しており、米国の大統領選も非難合戦が過熱している。

民主党では圧勝を予想されたヒラリー・クリントン候補に、予想を覆して肉薄している生粋のリベラル派でユダヤ系のバーニー・サンダース上院議員は、過日ワシントンから南西に300キロほどのバージニア州リンチバーグ市にある超保守的な福音派キリスト教徒の牙城として有名なリバティー大学で演説し「私は完全からは程遠い欠点だらけの男だが、キリスト教であれ、ユダヤ教であれ、また回教、仏教やその他全ての偉大な宗教に共通する理念に突き動かされてきた。」との述べた後に「何事でも人々からしてほしいと望むことは、人々にもそのとおりにせよ。これが律法であり預言者である」と教えた新訳聖書マタイによる福音書7章12節を引用して、「この理念は実に美しく明快で、決して複雑な事ではない。」と演説を締めくくると、サンダース上院議員の支持者が一人も居ない筈の1万2千人以上の聴衆からは野次一つ起こらず、熱狂的とは言えないまでも長く丁重な拍手が贈られたと言う。

この事からも、相手の嫌がる事をくり返す事は、自分の品格を傷つける効果しかないことは自明の理である。

日本の右翼からサンダース上院議員の様な人物がでる事や、韓国の国民にリバテイー大学の聴衆の様な紳士的な反応を期待する事は無理だとは知りつつも、日韓関係の改善に役立つこの様なエピソードが出てくる事を夢想した次第である。

2015年1月15日
北村隆司  

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