ジェンダー論に振り回されるな --- 長谷川 良

2015年10月04日 17:31

世界に12億人以上の信者を有するローマ・カトリック教会の総本山、バチカン法王庁で4日から3週間に渡って世界代表司教会議(シノドス)を開催する。バチカンは昨年10月、特別シノドスを開き、「福音宣教からみた家庭司牧の挑戦」について協議したが、通常シノドスではその継続協議が行われ、家庭問題に対する教会の立場を明確にする。欧米メディアは、「バチカンは今回のシノドスで教会のセクシュアル・モラル(性道徳)を公表するだろう」と予想するなど、通常シノドスの行方に熱い視線を注いでいる。
フランシスコ法王は就任以来、バチカンの機構を進める一方、教会の教えと現実の乖離を乗り越えるために腐心してきた。南米出身のローマ法王が指導力を発揮し、教会刷新、バチカン改革を実施していくか、バチカン内の保守派聖職者が巻き返しを図るか、通常シノドスは教会の未来を占う絶好の機会となる。

通常シノドスは4日、バチカンのサン・ピエトロ広場の記念ミサで始まるが、教会内で保守派聖職者と改革派で論争が既に始まっている。バチカン放送によると、保守派聖職者の代表、教理省長官ゲルハルド・ミュラー枢機卿は「世俗主義によって婚姻、家庭は危機に瀕している。シノドスで家庭の価値が明確になることを願う。法王は常に家庭、婚姻の価値を強調してきた。家庭は、社会を構成する細胞であり、教会の細胞だ。各家庭は家庭教会だ」と指摘する一方、「メディアの一部は教会にジェンダー理論を強要している。それは人間の土台を破壊する考えだ」と述べ、同性婚などでメディアからの圧力に対して警戒を呼び掛けている。また、典礼秘跡省長官のロベール・サラ枢機卿は2日、「シノドスで同性愛問題に議論が集中することを避けるべきだ。同性愛は教会の教義とは一致しない」と強調し、「シノドスは家庭の価値を高める契機となるべきだ」と語っている。

ミュラー教理省長が指摘するように、フランシスコ法王は就任後、家庭の価値を度々強調してきたが、その一方、「離婚が道徳的に必要な場合もある」と「離婚の勧め」とも思われる爆弾発言をし、先月8日には、「婚姻無効手続の簡略化」を実施すると表明している、といった具合だ。

例えば、フランシスコ法王は6月24日、一般謁見で、「家庭は自動的に幸福な世界ではない。傷つけあい、罵声が飛び交う場所でもある。多くの子供たちは親が互いに罵り合っているのを見て傷つく。夫婦間の葛藤の最大の被害者は子供たちだ。夫婦間の不和、葛藤がある段階を超えると離婚が避けられなくなる。そうなれば、離婚が道徳的にも必要となる」と強調し、離婚に理解を示している(「ローマ法王の爆弾発言『離婚の勧め』」2015年6月28日参考)。

その一方、フランシスコ法王は教会歴史上初めて、模範的な生き方をしたという理由から夫婦を列聖する計画を明らかにしている。その夫婦とは、フランス人のルイ・マルタン(1823~94年)とゼリー・マルタン(1831~77年)夫妻だ。今年10月18日、シノドスの枠組みの中で列聖式が挙行されるという。実現すれば、教会近代史で初の“聖家族”が誕生する。フランシスコ法王は、「夫婦は聖人への王道だ」とツイッターで呟いている。

教会の抜本的な改革を期待する聖職者も少なくない。ドイツのオスナブリュック教区のフランツ・ジョセフ・ボーデ司教は「シノドスが教会の教義と信者たちの生活の間の乖離に明確な指針を提供することを期待する。シノドス開催前と後で教会が同じような状況であってはならない」と、教会の抜本的な改革を期待している聖職者の一人だ。

シノドスは全体会合のほか、13の小グループに分かれて論議が行われるが、その主要テーマの一つは再婚・離婚者への聖体拝領問題だ。(離婚、再婚が多い)信者たちの現実と(離婚、再婚者には聖体拝領を認めない)教会の教えの間に乖離が広がり、信者の教会離れが急速に進んできた。そこで教会は離婚・再婚者への聖体拝領を認めるべきだという教会の現場からの声が強い。ただし、保守派聖職者から離婚・再婚者への聖体拝領は教義上、許されないという声がここにきて強まってきている。

ちなみに、オーストリアの著名な牧会神学者パウル・ツーレーナー氏は「コミュニオンはその信仰への代価ではなく、傷ついた人への癒しだ」と述べ、離婚・再婚者への聖体拝領拒否は差別だと主張している。

メディアが関心を払う同性婚問題では意見の交換があるかもしれないが、同性婚がシノドスで容認されることは目下、考えられない。アイルランドのローマ・カトリック教会が5月22日実施された同性婚の合法化を明記する憲法修正案の是非を問う国民投票で完敗したが、バチカンのナンバー2、ピエトロ・パロリン国務省長官は「教会の敗北だけではない。人類の敗北だ」と述べ、教会は同性婚問題ではそのドグマを変える意思がないことを強く示唆している。

シノドス後、どのような文書が公表されるかは「フランシスコ法王の決定次第だから、目下不明だ」(シノドス事務局長のロレンツォ・バルディッセーリ枢機卿)という。法王は家庭、婚姻、愛の問題で教会聖職者、信者たちの全てを満足できる結論を下すことができるだろうか。それは元々,インポッシブルだ。とすれば、フランシスコ法王の決定は教会を2分にする危険性を排除できないわけだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年10月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。


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