ビジネスや貴方の生活を素敵に変える話し方とは

尾藤 克之

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いまや、ビジネスや生活の場において「話す力」の重要性はますます高まっている。私たちはそれらから逃れることはできない。しかし、日本には「話す力」を高めるための手段が少ない。高額な研修やテキストは一般的でないだろう。ある調査によれば、約8割の日本人は「話すことに対して苦手意識を持っている」とも言われている。

夏川立也(以下、夏川)は六代目・桂文枝(当時は三枝)の弟子として、人気テレビ番組「新婚さんいらっしゃい! 」の前説(※本番の前に、観客の気持ちを盛り上げながら、注意事項を説明すること)を10年続け、その後も講師としてのキャリアを重ねるなどのユニークな経歴をもっている。

5月に上梓された、『誰からも必ず「よかった! 」と言われる話し方39のコツ』(日本実業出版社)には、夏川のユニークなテクニックが審らかに語られている。今回はその一部を紹介してみたい。

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●必要な要素は3つある

夏川は、うまく話すための要素は「コンテンツ」「パフォーマンス」「フィールド」の3つだと述べている。整理すると次のようになる。

1.コンテンツ(内容)
話す内容を精査し聞き手に響く内容を準備すること。

2.パフォーマンス(表現)
表現能力を高め、より効果的に聞き手に届けること。

3.フィールド(場/空気)
パフォーマンスを発揮しやすい状態に場をつくること。

しかし、「話し方」「スピーチ」に関する本の多くは、これらのどれか1つに偏っていると述べている。3つの要素のうち、どれか1つが欠けても人前で上手くは話せない。この3つの要素を自分なりに発展させることで、かなりの確率で聞いた人に「よかった!」と言ってもらうことができるのだと。

確かに、話し方やスピーチは、自らの意志を的確に伝えて意思表示をするものと考えられている。この能力を高めることは、相手とのコミュニケーションを潤滑にし信頼関係を築くものであると多くのビジネスパーソンは習っているはずである。

話し方やスピーチの達人としてよく引用されるケースに、スティーブジョブズがいる。コンテンツ(内容)はスライドに1ワードのみ。パフォーマンス(表現)ではノンバーバルスキルを効果的に活用し、プレゼンのポイントでは、声をひときわ大きく、ジェスチャーもオーバーにおこなう。そしてフィールド(場/空気)はスティーブジョブズに熱狂する。しかし、一般人が同じように真似をしてもスティーブジョブズにはなれない。むしろ、大きなジェスチャーをしながら右から左に歩き回ったら極めて滑稽に見えるだけだろう。

夏川は本書のなかで、話し方やスピーチを次のようにとらえている。

「ふだんの会話は、家の前でキャッチボールをするようなものです。が、人前で話すとなったとたんに大観衆の見守るなか、勝利を求めてバッターに渾身の力でボールを投げ込むピッチャーのような状態になります。」

そのなかで日々のブラッシュアップやトレーニングの必要性をうたっている。練習どおりの投球をするにはマインドやメンタル面が影響を及ぼす。そして最後に「場」を味方につけることが大切であると。プロ野球でもサッカーでも、ホームとアウェーでは成績に驚くほどの差が出るものだ。場の空気は、ピッチャーがパフォーマンスをしっかり発揮するためのバックボーンになるのである。

「武器となる『コンテンツ』を精査して、『パフォーマンス』を高めるためのコツを知ったうえでトレーニングをして、『場』を味方につけて話すことができるようになれば、観客を魅了してやまないエースピッチャーのように、あなたは間違いなく人前でうまく話せるようになります。」

●最後は「共感」が重要

テレビのバラエティ番組で、誰かのツッコミが入った瞬間に大爆笑というのはよくある光景である。それではツッコミとは何だろうか?

夏川は「共感」であると答えている。わかりやすく表現するなら「誰もが思うことを、思うよりも一瞬早く口にすること」である。ツッコミが入った瞬間に少しスベった感があるときは、誰もが思うことを口にできていないか、誰もが思うよりも一瞬早く言えていないかのどちらかだそうである。

一般のケースに置きかえると「今日は暑いですね」「今日は天気がよくてワクワクします」みたいな共感性の高い言葉になるだろう。プロの漫才師でも開口一番「今日は暑いですね」と口にすることはある。これは共感を得ることで場をプラスに転じているのだろう。

最後に、本書に書かれている夏川の一文を引用し結びとしたい。「一生懸命に話すためには、一生懸命に準備しなければなりません。一生懸命に準備をしたからこそ、本番で開き直ることができるのです。一生懸命に話したからこそ、『結果はあとからついてくる』と受け止めることができるのです。」

●尾藤克之(BITO Katsuyuki)
コラムニスト/経営コンサルタント。議員秘書、コンサルティング会社、IT系上場企業等の役員を経て現職。著書に『ドロのかぶり方』(マイナビ)『キーパーソンを味方につける技術』(ダイヤモンド社)など多数。
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