【映画評】疑惑のチャンピオン

2016年07月05日 06:00
The Program: Seven Deadly Sins - My Pursuit of Lance Armstrong (English Edition)
自転車ロードレース選手ランス・アームストロングは、25歳のときに発症したガンを克服し、サイクルロードレースの世界最高峰“ツール・ド・フランス”で7連覇を達成するという偉業を成し遂げる。競技外ではガン患者を支援する慈善活動に尽力するなど、世界中から尊敬を集めるスーパーヒーローだった。だが彼には、薬物使用疑惑が常につきまとっていた。1人のジャーナリストがこの疑惑を徹底的に追及すると、やがてスポーツ界を震撼させる衝撃の真実が次々と明るみになっていく…。

 

ツール・ド・フランス7連覇を達成しながらも、薬物使用によりタイトルはく奪、競技から永久追放されたランス・アームストロングの栄光と闇を描く異色の伝記ドラマ「疑惑のチャンピオン」。オリンピックをはじめとする大きなスポーツ大会ではいつも話題になるドーピング問題だが、アームストロングの場合、あまりにも複雑かつ衝撃的だ。ガン発症の際にすでにドーピングに手を染めているのは、治療目的だとしても、その後の組織ぐるみのドーピングは、ここまでするか?!と思わせるほど大掛かりで計画的だ。試合前の検査直前に一気に血液を入れ替えて検査をパスするやり方は、スポーツ医学に精通したチームドクターが編み出したものだ。

大衆はヒーローを求め、アームストロングは異常なまでに勝利を渇望し、巨費が動くスポーツビジネス界は金儲けのためには手段を選ばない。モラルはいったいどこへ?!と思わず叫びたくなるが、この映画の面白いところは、ドーピングを糾弾するスタンスではなく、あくまでもアームストロングの人間性に迫って描いている点だ。

もちろん薬漬けで得た勝利など認められないし、アームストロングの不正を追及したサンデー・タイムス紙記者デヴィッド・ウォルシュにはジャーナリスト魂を感じる。それでも、アームストロングが持つ、カリスマ性は否定できない。したたかなアームストロングはぎりぎりまで不正を認めないエゴイストだが、誰よりも自転車レースを愛し情熱を傾けた努力家でもある。難病を克服しガン患者に希望を与える活動にも嘘はなかったはずだ。

「クイーン」のスティーヴン・フリアーズ監督は、アームストロングという矛盾がうずまく人間に興味をひかれたに違いない。単なる善悪では割り切れない人間の多面性を、ベン・フォスターが的確に演じている。壮大なアルプスの景観と臨場感あふれるレースシーンも大きな見所だ。オリンピックイヤーである2016年、改めてスポーツ精神について考えてみるきっかけになる映画である。
【70点】
(原題「THE PROGRAM」)
(イギリス/スティーヴン・フリアーズ監督/ベン・フォスター、クリス・オダウド、ギョーム・カネ、他)
(モラル度:★☆☆☆☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年7月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。

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