【映画評】団地

渡 まち子

大阪に住む山下ヒナ子と夫の清治は、とある事情で、営んでいた漢方薬店をたたみ、団地に引っ越してきた。ヒナ子はパートに出て、清治は散歩ばかりしていたが、ささいな出来事から清治が家に引きこもってしまう。急に清治の姿が見えなくなったことで、団地の住人たちは妄想を膨らませ、ヒナ子が清治を殺してバラバラにしたという噂が広まり、ついにテレビ局が取材に訪れる。さらに奇妙な立ち居振る舞いの青年が山下家を訪れて、事態は思わぬ方向へと進み始める…。

大阪の団地を舞台に、住民たちが繰り広げる奇妙な騒動を描く異色コメディ「団地」。阪本順治監督と藤山直美が「顔」以来、約16年ぶりにコンビを組んだ作品だが、実にユニークな快作(怪作)に仕上がっている。近年の阪本監督は「北のカナリアたち」「人類資金」と、個人的にはさっぱりノレない作品ばかりでがっかりしていたが、本作は初期大阪作品群に通じる面白さがあって、久しぶりに阪本節全開だ。

ただ、重いテイストだった「顔」に対し、本作はまさかの展開でぶっ飛ぶライトな不条理喜劇。監督自身が星新一や筒井康隆の短編に影響されたと語っているように、最初は団地内でののっぴきならない人間関係を描きながら、物語半ばで大胆にもSFにシフトするから驚いた。だがこの唐突な展開の中にも、ヒナ子と清治が息子を失くした悲しみや、噂が噂を呼ぶ団地コミュニティの日常、人それぞれの死生観まで盛り込んで、深みを出しているのはさすがだ。

藤山直美と岸部一徳のW主演の二人はさすがの芸達者ぶりで文句ない存在感だが、意外なほど好演なのは謎の青年を演じる斎藤工。「高台家の人々」といい本作といい、人間離れした役が続くが、あきらかにこちらがハマッている。先読み不能の展開と、時空を超えた不思議なハッピーエンド。ウン、阪本順治監督ってやっぱり“おもろい”人だ。

【70点】
(原題「団地」)
(日本/阪本順治監督/藤山直美、岸部一徳、斎藤工、他)
(奇想天外度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年7月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。