ただ行けというだけで若者は投票に行くのか --- 海老沢 由紀

2016年07月09日 10:10

海老沢由紀(えびさわゆき)です。田中康夫さんの選挙カーに乗ったら、田中さんがカーナビより東京に詳しくてビックリしました。

いよいよ7月10日は参議院選挙の投票日です。18日間の長い選挙期間が終わります。しかし4日後には、今度は17日間の東京都知事選挙が始まります。

東京都民にとっては選挙が1ヶ月以上続いて、毎日騒々しい日々です。

嫌でも政治に対する関心が高まるはずだと思うのですが、若い年代の投票率はどうなるでしょう。
今回から投票できる年齢が18歳まで引き下げられました。気になります。

昨年、大阪都構想の住民投票の際にブログに書いた「ただ行けというだけで若者は投票に行くのか」ですが、改めてアゴラに掲載させていただきたいと思います。

なぜ若い人は投票に行かないのか、なぜ高齢者は行くのか、についてです。

自分の1票で結果が変わることはまずありません

自分が入れなければ同数であり、1票差で決まる状況だけが、自分が入れた1票で結果が変わったということになるのですから、通常そういう確率は限りなくゼロに近いはずです。

そのうえ、投票に至るまでには様々なコストが存在します。
投票所が遠い人や交通費がかかる人もいるでしょうし、レジャーに行くための貴重な時間も消費します。
誰に投票するか決めるために、新聞を読んだりニュースを見たり人に聞いたりする時間や手間もコストになります。
若い人ほど出かける用事も多いでしょう。取られる時間や手間に対するコストも、高齢者に比べるとだいぶ高くなると言えると思います。

全員がただひたすら合理的に考え、選挙結果を変えたいだけの動機だったら、投票に行く人はあまりいなくなるはずです。
投票に行く人にはそれ以外の動機があるはずです。
たとえば、自分の信念を叶えてくれそうな政治家や政策に共感し支持を表明したい。民主主義を維持するために投票に行くのが正しいという規範。自分の行動の一貫性を保ちたい。人に良く見られたい。祭やムーブメントに乗りたいなど。

様々な思いがプラスされた所に、「自分の1票では変わらない」のに「コストを払って」投票に行くという行動をとる動機が生まれるのだと思います。

高齢者は社会規範がある?

なぜお年寄りが投票に行くかを想像すると、社会規範が根底にあるからではないでしょうか。
現在70歳の方が生まれたのは昭和20年。終戦の年です。

終戦までは軍国主義でした。終戦と同時に、民主主義が正しいという思想に転換しました。
国のために個人は犠牲にという思想から自由平等な民主主義へ。劇的な思想転換ですが、短い期間で思想が一変したのです。

この思想転換をまたいだ経験を、70代以上の多くの方が持ちます。生まれた時から民主主義が当たり前だった世代とは違った感覚を持っている方も多そうです。

終戦後に育った方も、親は間違いなくお国のためにというような教育の中で育っています。
そして、「世間様に迷惑をかけない」「ご近所に顔向けが出来ない」などの強烈なムラ社会の中で生きてきました。

(みんなが行ってるのに)行かないのは悪いこと。悪い人になりたくないから投票に行くし、世間様と同じように考えて行動するのが正しい。

そういう考えが薄まってきても、昔からずっとそうしているから自分の行動の一貫性として今もあたりまえに投票に行き続ける。社会規範として投票に行くのが当然であり義務だと思っているのです。

若い人は多様性を認め合理的に考える?

一方、若い人にはそうした社会規範がありません。

また、ムラ社会に生きてきた高齢者に比べると多様性を認めやすく、みんなと同じ思想や行動を取らないことに対する抵抗もかなり低いことでしょう。

逆に、共感を得るための行動や、人々の思想をまとめていく方向の活動は苦手なのではないでしょうか。
人数が多く、すぐまとまって同じ方向に行動する高齢者に対し、まとまらない自分たちの世代に政治的無力感を感じることは多いでしょう。

良いとか悪いということではなく、違いをきちんと認識した上で対策を考えないといけないのではないかということです。

歳を取れば選挙に行くようになる?

グラフ1を根拠に、「若いうちは政治に興味が無いから投票に行かないが、歳をとって政治に興味が出れば行くようになる」という分析があります。

年代別投票率
グラフ1(総務省公開資料)

しかし、このグラフのデータを元に、世代別の投票率のグラフを作るとグラフ2になります。
よく見ると、若い時の投票率を基準にして、年齢が進んでもせいぜい10%しか変動がありません。
これらから、前の世代の投票率にはさほど変化がありませんが、最近選挙デビューの若者の投票率が急激に下がっていることで、それに連れて全体の投票率も下がってきたことがわかります。

最近の選挙で、一見すると中年以降の人の投票率が上がっているように見えるのは、この現象が原因です。
「見た目」の投票率による「錯覚」であると言えます。

世代別投票率グラフ
グラフ2(総務省公開のデータより作成)

また、なぜ選挙に行かないかというアンケートでも、政治に興味が無いという理由は、実はそれほど多くありません。

選挙に行かない理由
東京都選挙管理委員会配布の資料より

つまり、年代で投票率が変動するのではなく、やはり世代に固有の投票率があることがわかります。
若いうちから選挙に行く人はおそらく歳をとっても行き、若いうちから行かない人はずっと行かない傾向があるのではないかと想像できます。
やはり、「世代ごとの社会規範」が影響しているのではないかと考えられるのです。

動機が足りない

最近の若い人は社会規範に乏しく、投票に行く動機が小さいため、投票に伴うコストを乗り越える力が、高齢者と比較してかなり必要なのではないかとなります。

ただ「投票に行け」というだけでは、どうにも説得力が足りないような気がします。

アファーマティブ・アクション

少子高齢化で、世代ごとの人数に偏りが大きくなってきました。
そのため、投票率の問題を除いても、若い世代を代表する議員の数が相対的に少なく、税金を納める側の若い人の意志が反映されにくく、使う側の高齢者の意見ばかりが通りやすくなってきていると言われます。
そろそろ、投票率を上げること以外の方法で、若い人を代表する議員数を増やす方法も検討する時期にきているのではないでしょうか。

性別のアファーマティブ・アクションとともに、年代別のアファーマティブ・アクションを選挙制度に取り入れることも一つのアイデアです。

アファーマティブ・アクションは逆差別だとの主張も見られますが、そもそも、選挙区で選出するという地域選出の選挙制度は、「地域のアファーマティブ・アクション」と言えます。

地域は、性別や年代、思想など多数ある代表選出基準の要素の1つです。そのなかのどれを拡張するかは、選挙制度を考える段階で検討すべきことであって、前提では無いのです。

たとえば、政治思想で代表を選ぶなら、比例代表中心の選挙制度が正しいでしょう。
性別や年代、思想などの公平さを論じず、地域の定員の偏りだけ「公平じゃない」とするのは、よく考えたら少しおかしいのに気づくはずです。

とは言っても、長く続いている選挙制度を大きく変更するのは、現状で当選している議員が決めることを考えると、著しく困難なことなのは明らかです。

非常につきなみですが、まずは投票方法や情報に対するアクセスを改善することや、政党が若者に興味がある政策や候補者を提示することで、投票までの政治的なコストを下げる努力から始めるしかないでしょう。

海老沢

海老沢 由紀(えびさわ ゆき)
政治活動家/元プロスノーボーダー

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