日本の経済尺度はGDPからGNIに成長か?

岡本 裕明

「4-6月のGDPが0.7%増と上方修正された」と報道されていますが、GDPは多くの場合、前回との比較を%で表現し、「五百数十兆円」という金額表示もしないし、指数化して判りやすくしたわけでもありません。今日はその指標について考えてみます。

国の経済のチカラを表すのに我々が学校で習ったのはGNP(=Gross National Product=国民総生産)でありました。これは国連統計委員会によって採択された国民経済計算の体系(68SNA)をベースに計算する方式を1978年から行ってきたものです。その間にその当時のグローバリゼーションでこの計算方法が世にふさわしくなくなったため、1993年に新たな手法、国民経済計算体系(93SNA)が国連で採択され、日本では2000年に導入され、GNPからGDP(Gross Domestic Product)になりました。

GDPとは国内で生産される付加価値の総計であります。つまり輸出は入りません。純粋な国内経済の成長を意味するGDPについて安倍首相は2020年ごろまでに600兆円を目指すとしています。現在からざっと100兆円、あるいは20%増やすというものでそれなりの大枠のプランは打ち出されています。

世界ではGDPが今でも基準体系なのですが、これを増やすには成長過程にある人口が大い国が有利に決まっています。事実、日本が中国に追い抜かれ世界第3位になったのはこの人口差が圧倒しているためです。但し、一人当たりのGDPは2015年に中国は8000ドル程度であり、日本の32000ドルと大きな差があります。

ちなみにドル建てGDPも為替レートでGDP額とランクはいくらでも上下するわけで成熟化した日本に於いて1人当たり40000ドル以上あった時代もあるし円安時に計測された2015年は32000ドルと落ち込んでおり、微妙な数字はほとんど意味をなさないとも言えます。

少子高齢化が進み、外国人の移民が積極的に増えるわけでもない日本に於いてGDPの2割増しとは常識的にはかなり高い目標であると言わざるを得ません。では民間企業が日本国内にそれだけの投資をしたくなるほど魅力的な市場であるかと言えばこれは残念ながらNOでありましょう。

理由は至極簡単で人口が増えなければ人口一人当たりの基礎支出は増えません。高齢化は支出が物理的にも精神的にもシュリンク(収縮)します。デフレ下ないしディスインフレーション下に於いては企業は付加価値より販売価格を下げることに重きを置きやすく薄利多売が増え、勝者なき戦いとなりやすくなります。

個人的にはGDPという指標にはもはやあまり興味がなく、1人当たりGDPが一定水準を維持しているのかそこだけを見るようにしています。

では企業活動は何処を向いているかと言えば海外投資であります。個人はどうでしょうか?海外の株式や国債に投資していませんか?貿易収支が黒字になった、赤字になったとニュースで話題になりますが、これもGDPには無関係です。ところが我々の生活は輸入した資源や物資に依るところが大きいことは周知のとおり、そして、為替によりその調達価格は大きく変動します。

世の中がここまでグローバル化しているのにGDPを尺度の中心とするにはやや無理が出てきています。そこで考えられるのがGNI(Gross National Income=国民総所得)であります。GNIにはGDPの計算に二つ、加算されるものがあります。一つは海外からの収益、もう一つが貿易(交易)であります。

成熟化ないし高齢化した社会では勤労者の割合は少なくなる一方、蓄財した資産を運用することで資産が更に増える行動を行います。企業活動もアグレッシブに攻める成長期に対して安定期に入り株主に配当で報いる成熟期に分かれます。その投資や運用が海外で成されていても企業や個人の富の変化はGDPに反映されません。これは本来の意味での国民の富を表していないのではないでしょうか?

経済の尺度はいろいろあります。そしてそれは時代と共に変化するものとも言えます。かつてGNPがGDPに変わったようにGDPがGNIに代わってもよい時代かもしれません。ちなみにGNPとGNIはかなり近い概念ですが、どちらかというとGNPが国民の生産量に対してGNIは国民の所得量ともいえます。

つまり高度成長期に日本がせっせと生産しまくっていた時代はGNPがうってつけですが、高齢化し、持てる資産を海外にまで投資し、運用する時代にはGNIがふさわしいという気がします。

但し、世界の国は皆成長度合いが違いますので日本だけGNIにすると比較できなくなります。特にドル建てのGDPはあくまでも世界の中でどの位置にあるのか、あるいは統計的にどれだけ増えたり減ったりしているのか、その比較数値でしかないのかもしれません。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 9月9日付より