【映画評】カノン

2016年10月13日 06:00

石川県金沢市の老舗料亭で育った、東京で専業主婦の長女・紫(しおり)、富山県黒部市で小学校教師をしている次女・藍(あい)、金沢で老舗旅館ついでおかみとして働く三女・を茜(あかね)の3姉妹は、それぞれ、悩みを抱えながら生きている。育ててくれた祖母の葬儀で久しぶりに顔を合わせた三人は、祖母の遺書で、死んだと聞かされた母親・美津子が実は生きていると知らされて驚く。会いに行ったものの、父の死をきっかけに酒におぼれた母は、アルコール性認知症を患っていて、3姉妹のことは認識できなかった。だが母が、姉妹が幼い頃にピアノで弾いた曲が流れるオルゴールを大事に持っていたことから、次女の藍は母の過去を調べ始める…。

北陸の金沢、黒部を舞台に3姉妹が母にまつわる真実を探りながらそれぞれの人生に向きあっていくヒューマン・ドラマ「カノン」。タイトルは有名なピアノ曲、パッヘルベルのカノンのことで、幼い3姉妹が、母と一緒に弾いた思い出の曲である。アルコールに溺れた母の過去は、3姉妹にトラウマとして焼き付いていて、彼女たちは人生で前に進むために、母の知られざる過去に向き合うことに。そこには思いがけない真実があるという展開だ。母はなぜ自分たちから離れていったのか。どんな思いで生きてきたのか。祖母はなぜ嘘をついたのか。ストーリーは映画を見て確かめてもらうとして、一見静かなこの物語には、アルコール依存症、モラルハラスメント、不倫や認知症と、なかなかハードな内容が散りばめられている。それらの悩みや苦しみが、美しい北陸の風景を背景に展開するギャップは、映画の見所のひとつだろう。

実を言うと私は、過度なアルコール依存症が認知症を引き起こすということを、この作品で初めて知った。依存症、さらに認知症にかかった母の美津子を演じるのは鈴木保奈美で、壮絶な演技を披露している。久しぶりに映画で顔を見る多岐川裕美、島田陽子をはじめ、3姉妹を演じる比嘉愛未、ミムラ、佐々木希など、徹底して女性目線で描かれる物語だが、彼女たちの愛と葛藤を丁寧に描く演出は心に響く。カノンとは音楽用語で、元になる旋律を模倣しながら後続の旋律が次々に追いかけて演奏する様式の曲のこと。劇中では、母の思いと姉妹の願いが時を経て次々に重なり、家族の再生へとつながっていく。地味な作品だが、女性映画としての優しさと強さに満ちている。
【60点】
(原題「カノン」)
(日本/雑賀俊朗監督/比嘉愛未、ミムラ、佐々木希、他)
(女性映画度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年10月12日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Facebookより引用)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。

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