【映画評】TSUKIJI WONDERLAND(築地ワンダーランド)

渡 まち子

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起源は、江戸時代の魚河岸にまでさかのぼるという築地市場は、日本の食文化をささえ、庶民の食卓に魚を供給してきた巨大なマーケットだ。四季折々の魚、仲卸の人々の営み、一流の料理人との信頼関係、独特の伝統とシステム。さらには観光客や食を通して育む教育まで、カメラは歴史ある築地とその深部に迫っていく。

東京都中央卸売市場築地市場の日常を、1年以上にわたり追い掛けたドキュメンタリー「TSUKIJI WONDERLAND(築地ワンダーランド)」。何かとニュースを賑わせている移転問題だが、この映画がスタートした頃には、2016年11月に豊洲に移転する予定だった。現在では盛り土問題その他もろもろで、中断してしまっている。

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その真相や是非はさておき、映画は、プロとプロとの真剣勝負のやりとりが日々行われる築地の実態を、詳細に、わかりやすく追ったドキュメンタリーで、非常に興味深い内容だ。有名店の一流の料理人や評論家、文化人が多数登場して築地の魅力と役割を述べているが、感嘆するのは、築地市場で働く人々のプライドとプロ意識の高さである。ある意味、アナログな世界なのだが、だからこそ忘れてしまいがちな人情や信頼関係が大きくモノを言う仕事場には、独特の緊張感や息遣いがあり、憧れさえ感じてしまう。

映画では、迷路のように複雑な築地市場の全体像が分かりにくいのだが、時折俯瞰でとらえるカメラワークでその巨大さ、複雑さが垣間見える。これがすべて移転するのか…と改めてコトの重大さを感じてしまった。真剣に魚に向き合う大勢のプロフェッショナルのためにも、未来へと残す食文化のためにも、移転問題には良い解決策を提示してほしいと心から願う。TSUKIJIは日本の誇りだが、世界への扉でもある。本作の映像資料としての重要性は計り知れない。
【70点】
(原題「TSUKIJI WONDERLAND(築地ワンダーランド)」)
(日本/遠藤尚太郎監督)
(資料的価値度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年10月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。