【GEPR】朝日新聞の「原子力ルネサンス」

池田 信夫

米スリーマイル島原発事故(79年)や旧ソ連チェルノブイリ原発事故(86年)で米欧の原発建設が停滞したなか、フランスは推進策を維持してきた。燃料加工や再処理技術も持つ。世界的な原子力回帰の流れを弾みに、官民挙げて原発輸出を狙う。「原子力ルネサンス」と関係者は盛り上がる。

原子力ルネサンス 温暖化対策、高まる機運 (朝日新聞デジタルSELECT)

2010年9月に出版された本書は、冒頭でこう謳い上げる。地球温暖化対策の決め手として原子力が注目され、チェルノブイリ以降の「停滞」を乗り超え、原子力産業は成長産業になったという話だ。東芝の西田厚聡社長が2006年に原子炉メーカー、ウェスティングハウスを(その提携先だった)三菱重工の提示した価格の2倍で買収したのも、こういうムードの中では当然だった。

ところが朝日は3・11のあと急旋回して口をぬぐい、この記事を書いた国末憲人論説委員は「反原発」の論陣を張り始める。まるで1945年8月14日に「本土決戦」を呼号していた朝日が、その1ヶ月後には「平和国家の建設」を語り始めたようなものだ。

本書の内容は、技術的には今も通用する。「チェルノブイリ以降、原発の死亡事故はゼロだが、地球温暖化の脅威は高まっている」というデータは、今も同じだ。おそらく10年もたって今のバカ騒ぎが終われば、また「原子力ルネサンス」が始まるだろう。エネルギーを6%しか自給できない日本にとって、それ以外の道はないからだ。

そのとき朝日新聞は、また何もなかったかのように「気候変動の深刻化」を語り、「クリーン・エネルギー」としての原子力の重要性を語るだろう。しかし事故直後の混乱した状況でAERAが「放射能がくる」という特集で恐怖をあおり、「プロメテウスの罠」で「原発事故で鼻血が出た」などという風評被害を拡散した証拠は、ネットにたくさん残っている。

民主党政権や朝日新聞が混乱させた状況からエネルギー産業が立ち直るには、長い時間がかかるだろう。それは製造業の海外逃避をもたらし、慰安婦問題よりはるかに大きな傷を日本経済に残した。朝日の犯罪は永遠に歴史に残る。新聞が「朝日不動産」のオマケのフリーペーパーになっても、彼らはその罪を贖わなければならないのだ。