リベラルな安倍首相に対抗する「保守革命」が必要だ

池田 信夫

今週のVlogで、民進党を離党した長島昭久氏が「安倍首相が安保法制の審議で民進党を左へ追い詰めたので、共産党と区別がつかなくなった」と嘆いていた。首相の政策は世界的にみると左派で、アイケンベリーはこう書いている。

リベラルな国際秩序を存続させるには、この秩序をいまも支持する世界の指導者と有権者たちが、その試みを強化する必要があり、その多くは、日本の安倍晋三とドイツのアンゲラ・メルケルという、リベラルな戦後秩序を支持する2人の指導者の肩にかかっている。

彼の憲法改正案も、ほぼ公明党と同じ「加憲」で、民進党の大勢もこれに近いという。蓮舫代表は対立軸を打ち出せないので、加計学園などのつまらない問題で時間を稼いでいる。自民党内では石破茂氏などが第9条2項との整合性を問題にしているが、民進党はそれさえ追及できない。やり始めたら「民進党の改正案を出せ」といわれて、党が分裂するからだ。

外交・防衛では、基本的に大きな争点はない。アイケンベリーもいうように、トランプ大統領の外交方針が支離滅裂なだけで、他の国のスタンスはそう大きく変わらない。日本だけは憲法第9条という足枷があるが、これも実質的には軽減された。この分野で安倍首相よりリベラルな政策を出すことは不可能だ。

「大きな政府」をめざすアベノミクスも、アメリカの民主党に近いリベラルな政策だ。「賃上げ要請」などの所得政策は、社民を通り越して国家社会主義に近い。それはそれで一つの考え方なので、これに対する保守党がないと有権者の選択肢がない。といっても産経新聞みたいなオールド右翼ではなく、もっと幅広い無党派層に共感を得る必要がある。

そういう「安倍首相より右」の選択肢は可能だろうか。私は可能だと思う。それは1990年代に小沢一郎氏がめざした「小さな政府」である。『日本改造計画』の中で小沢氏の書いたのは序文だけで、内容は大蔵省の香川俊介氏(故人)が編集長となり、経済政策は竹中平蔵氏や伊藤元重氏、政治改革は北岡伸一氏や飯尾潤氏などが書いていた。

それはサッチャー・レーガン以降の世界の政治の流れだった。その後の政治は、この保守革命を起点として、リベラルもバラマキ福祉をやめ、マクロ経済政策は金融政策が中心になった。それが行き詰まった今も、保守革命の前に戻ることはありえない。

しかし大きく変わった点がある。かつて小さな政府の主役だった財政タカ派(香川氏はのちの財務次官)が後退し、ゼロ金利で金融政策がきかなくなったため、財政政策がまた注目を浴びていることだ。これは昔のケインズ政策ではなく、プレスコットやルーカスなどの「極右」も税制改革の効果は大きいと指摘している。

彼らがほぼ一致して主張するのは、きわめてゆがみの大きい法人税を廃止することだ。その財源をどうするかは、人頭税から消費税までいろいろな選択肢がある。「累進消費税」への転換は、ロバート・フランクのようなリベラル派も提唱している。

ただアメリカの税制改革が難航しているように、これは税の大転換なので、強力なカリスマ的指導者を必要とする。残念ながらトランプは国境調整税(BAT)のコンセプトを理解していないので、アメリカでは無理だろう。日本でも財務省と仲の悪い安倍首相には期待できない。次の指導者の切り札があるとすれば、税制改革だと思う。