小野寺防衛相発言を懸念する阪田雅裕氏は何の「専門家」なのか

篠田 英朗

小野寺五典防衛相は、8月10日、米軍基地のあるグアムが攻撃された場合、集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」にあたりうる、との考えを示した。

一部では、自衛隊には迎撃能力がない云々といったことを議論している向きもあるようだが、的外れだろう。「攻撃された場合」の話は、「日本に迎撃能力があるか」の話だけに還元されない。論点は、「グアムが攻撃された場合」、米国が自衛権を行使する、そのとき日本が協力して共同作戦行動をとるかとらないか、そのことを意思表明するかどうか、だ。

「とるかどうかはわからない、憲法学者によく相談してみます」という回答をしなかった防衛相は、六法全書を手離すことがなかったと言われる前任者と比して、とりあえず着実な仕事をしたと言えるだろう。

朝日新聞は、「専門家からは「拡大解釈」との懸念の声もあがる」という内容の記事を出した。

阪田雅裕氏(内閣法制局長官時代の首相官邸サイトより:編集部)

「専門家」というのは誰かと思ってみてみたら、毎度お馴染みの「安全保障法制に詳しい」阪田雅裕・元内閣法制局長官である。

「米国が個別的自衛権を発動していない段階で、日本が『存立危機事態』と認定することはできない」と指摘し、小野寺氏の答弁は「拡大解釈にあたる」との懸念を示す。意味不明だ。

米国の自衛権発動は国際法上の問題なので、国内法制側ではそのような要件を明示していない。国際法の話は国際法の「専門家」に任せるべきだ。

そもそも防衛相は「対応できる」という点を述べているだけなのに、まだ条件がまだそろっていない、などと述べてみることに、何の意味があるのか。実際の有事の際には、瞬時に判断を進めなければならないことはわかっているはずだ。それなのに、こういう人の悪い嫌がらせのようなことを言うのは、無責任ではないだろうか。

阪田氏は「安保関連法の議論当時、・・・グアムの話はなかった」とも述べたという。意味不明だ。適用される事例を全て国会で話し合っていた経緯がなければ、その事例には適用してはいけない法律など、聞いたことがない。

何が起こっても同じ人を「専門家」と称して連れてくる悪習は、いったいいつまで続くのか。
阪田氏については、拙著『集団的自衛権の思想史』で次のように言及した。

「元内閣法制局長官の阪田雅裕は、積極的に集団的自衛権は違憲だという主張を発信し、違憲論者が形成した「国民安保法制懇」の設立者の一人にもなった。しかし「法制局の次長が局長にしてもらえて」、「ギリギリこれなら法制局としては結構です」という経緯を経て7・1閣議決定がなれてからは、「安倍総理が集団的自衛権という形式だけとって、実はとらない気持ちだったらあまり追い込んではいけない」という立場になり、安保法制懇からも離れていったという。小林節・山中光茂『たかが一内閣の閣議決定ごときで―亡国の解釈改憲と集団的自衛権』(皓星社、2014年)、35-36頁。」

自衛隊は違憲とは言わないが、合憲化してしまうとコントロールができない、アベ首相は嫌いだが、人事に口を出さないなら認めてやってもいい、みたいな意味不明な議論を、顔色は窺いながら、どんなテーマでもいつでもやってくれる人とは、何の「専門家」なのか。


編集部より:このブログは篠田英朗・東京外国語大学教授の公式ブログ『「平和構築」を専門にする国際政治学者』2017年8月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。