「車」が走る凶器となって暴走する時

スペイン東部バルセロナ市で17日午後5時頃(現地時間)、白いワゴン車が市中心部の観光客で賑わうランブラス通りを暴走し、地元警察の発表によると、少なくとも14人が死亡、約130人が負傷した。その数時間後、バルセロナ南部約100キロのリゾート地、カンブリスで5人の容疑者が射殺された。検問を受けた容疑者たちは逃走したため、警察側にストップされ射殺された。容疑者たちはバルセロナのテロ事件に触発され、同様のテロを計画していた可能性があるという。

▲犯行に使用された白ワゴン車が運ばれる(2017年8月18日、ドイツ民間放送「N24」の中継放送から)

▲犯行に使用された白ワゴン車が運ばれる(2017年8月18日、ドイツ民間放送「N24」の中継放送から)

地元メディアによると、ワゴン車をレンタルしたモロッコ国籍とスパイン国籍の2人の男性は逮捕されたが、車を運転していた犯人は犯行後、車を降りて逃走中。

警察の説明では、バルセロナの車暴走テロ事件とカンブリスの事件、そして前日16日に発生したアルカナー市(カタル―二ャ州)の住居爆発事件とは密接な関連があると判断、捜査を進めている。アルカナー市では爆発した住居からガス爆弾が発見された。テロリストたちが使用する爆弾を製造、間違って爆発したものと受け取られている(1人死亡、7人負傷)。

なお、スペインでは2004年3月11日、テロ事件では欧州最大の191人の犠牲者、2000人以上の負傷者を出した「マドリード列車爆発テロ事件」が発生している。犯行は国際テロ組織「アルカイダ」が表明した。

欧州では昨年から大型トラック、ワゴン車を使ったテロが頻繁に発生しているが、バルセロナ警察によれば、「イスラム過激派テログループの仕業」とみて、捜査を進めている。ちなみに、イスラム過激テロ組織「イスラム国」(IS)が同日、アマク通信を通じて犯行を声明している。

以下、車をテロの武器に使用して発生した欧州のテロ事件を列挙する。

①昨年のフランス革命記念日の日(7月14日)、フランス南部ニースの市中心部のプロムナード・デ・ザングレの遊歩道付近でチュニジア出身の31歳のテロリストがトラックで群衆に向かって暴走し、86人が犠牲となった。

②ドイツの首都ベルリン市中央部にある記念教会前のクリスマス市場で昨年12月19日午後8時ごろ(現地時間)、1台の大型トラックがライトを消して乱入し、市場にいた人々の中に突入しながら60メートルから80メートル走行。12人が死亡、45人が重軽傷を負う事件が発生した。

③ロンドンでは今年3月22日、1人の男が車を暴走させ、ウェストミンスター橋上の歩行者を轢き、ウエストミンスター宮殿敷地に入り、警官を襲うというテロ事件が起き、5人が死亡した。

④スウェ―デンの首都ストックホルムで2017年4月7日、1人のイスラム過激派テロリストが市内の女王通りを暴走し、4人が死亡し、15人が負傷した。犯人は難民希望者でISの思想に共感を抱いていた。

⑤ロンドンで5月3日、ロンドン中心部のロンドン橋で3人のテロリストがワゴン車で歩道を暴走し通行人を轢き、その後、車から降りて、近くの繁華街「Borough Market」で人々を刃物で襲撃する事件が起きた。8人が死亡、48人が負傷して病院に搬送された。

⑥ロンドン北部フィンズベリー・パーク地区で6月19日未明(現地時間)、1台の白色ワゴン車がモスク(イスラム寺院)のラマダン明け後の食事を終えて出てきたイスラム教信者たちにぶつかり、1人が死亡、10人が負傷した。ワゴン車を運転していた47歳の実行犯は、騒動に気がついて駆け付けたイスラム教信者らによって取り押さえられ、警察に引き渡された。

⑦スペインのバルセロナで8月17日、白いワゴン車が市中心部の観光客で賑わうランブラス通りを暴走し、地元警察側の発表によると、少なくとも13人が死亡、100人以上が負傷した。

以上、⑥を除く他の6件はいずれもイスラム過激派テロ事件とみられている。

当方はこのコラム欄で「大型トラックが無差別テロの武器」2016年12月21日参考)を書き、車がテロの武器として使用されるケースが今後増えるだろうと予想し、「ニースのトラック突入テロ事件後、イスラム過激派の間では、『トラックをテロの武器に利用し、可能な限り多くの人間を殺害せよ』という檄が発せられた」という西側のテロ専門家の情報を紹介したが、残念ながらその警告は現実となってきている。
ISが占領地のシリアやイラクから敗走している時だけに、欧州でISに共感するイスラム過激派やホームグロウン、・テロリストによる車暴走テロ事件が多発する危険性が高まっているわけだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年8月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。