常識を疑う!

荘司 雅彦

「常識とは18才までに積み上げられた先入観の堆積物にすぎない」
これは、かのアインシュタインの言葉です。私なりに考えると、常識というものは、それまでの人生で経験した先入観と偏見の塊です。

例えば、あなたの配偶者や恋人が”浮気”をしているとしましょう。
ほとんどの人は、「浮気相手が誰なのか」が気になります。同じ職場にいる人なのか、学生時代の同級生なのか…等々。

ところが、あれこれ情報網を張り巡らても、まったく相手を特定することができなくて頭が混乱してしまいました。

この混乱の原因は、「浮気相手は一人」だという常識に縛られた結果なのです。
とある調査事務所の人が書いた本によると、浮気相手は必ずしも一人とは限らず、多い人だと8人の相手と同時に浮気をしていたとのことです。

複数人の浮気相手がいれば、浮気相手を一人に絞って特定しようとするのは無理ですし、たくさん矛盾が生じてしまいます。

拙著「説得の戦略」でも書いたように、人間の頭の中には生まれてから次々と新しい情報を整理する棚のようなものが出来てきます。4本足で歩く動物を幼子は同じ棚に入れていますが、やがて「犬」「馬」という風に細かな棚が出来上がります。これをスキーマと言います。

私たちの多くは、サンタクロースは子供たちにプレゼントを配ってくれる優しいおじいさんだというスキーマを持っています。クリスマスパーティーにサンタクロースの衣装を着た人が現れれば、何となく嬉しくなるでしょう。

ところが、そのサンタクロースがいきなり拳銃を発砲しだすと、私たちは自分のスキーマと矛盾する事実に直面して思考が停止してしまいます。現実にあった事件ですが、同種の事件に比べてはるかに多くの犠牲者が出ました。最初から黒の目出し帽をかぶった男が入ってきたケースであれば、犠牲者ははるかに少なかっただろうと言われています。

三つ揃えのスーツを着ればネクタイを着用するのが昔の常識でした。寝ぼけてネクタイを締め忘れた先輩が職場で大笑いされたのを憶えています。しかし、今では福山雅治さん扮するガリレオのように、ネクタイなしで三つ揃えを着ていても違和感がありません。

子供を誘拐しようとする変質者が、サンブラスとマスクを着用した危なそうな男だと思うのも明らかに誤った常識です。ほとんどの犯人の容貌は、どこにでもいる優しいお兄さんです。だからこそ、子供が騙されるのです。

日常の何気ない風景を眺めながら、時には自分の常識を疑ってみましょう。
道路を走っている自動車が四輪であるのも、大昔にオート三輪が走っていた時代には”常識”ではありませんでした。

常識を疑い自分の頭に染み付いた偏見を一度清算すると、新たなアイディアが生まれることが多いのではないでしょうか?

説得の戦略 交渉心理学入門 (ディスカヴァー携書)
荘司 雅彦
ディスカヴァー・トゥエンティワン
2017-06-22

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年8月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。