読売の「北ミサイル迎撃レーザー開発」報道の裏は複雑そうだ

2017年09月04日 06:00

米国防総省YouTubeより

北の核実験当日、読売の「レーザー迎撃」構想報道がバズる

きのう(9月3日)読売新聞の電子版で、弾道ミサイルをブースト段階でレーザーを使って迎撃するシステムの開発を政府が検討している、と報じられ、ネット上で注目されていた。

レーザーでミサイル迎撃、発射直後に照射し破壊(読売新聞)

アメリカでは「LaWS」と呼ばれるレーザー迎撃のシステム。SF映画を思わせるような構想に加え、北朝鮮の6度目の核実験が強行されたタイミングも重なって、記事自体は、「いいね」が2000を超えるなど(4日0時時点)、バズったようだ。なお、ここまでの「LaWS」の開発状況については、8月中旬の産経新聞の記事が詳しい。

見えず音もなし…正確無比で無限に撃てるレーザー 1発わずか1ドル驚異の経済性

また、国防総省の公式YouTubeの3分弱の動画をみると、3年前の実験の成果の概要がわかる。

しかし、日本で開発・実践投入となると、そう簡単にはいかないようだ。読売記事がバズった当日の夜、軍事評論家の小川和久さんがFacebookで「取材不足で情報が古い」とダメだし。米軍で一度実用化を断念した経緯などに触れながら、冷ややかな見解を示した。

小川さんは、有効射程が短すぎるなどの技術的な問題を指摘したが、法的にはどうなのか。軍事素人の私からみてもシステムを説明した読売の図解をみて疑問だったのは、どこの空でブースト段階での破壊が行われるか。少なくとも、読売の図解では、北朝鮮を名指しこそしていないが、ミサイルを発射した国の上空を飛翔中にレーザーを当てるようにみえる。

読売新聞より引用

どこまでの高度を「領空」とするかは国際法上、いろいろな説があるが、少なくとも宇宙空間より下の段階で北ミサイルを迎撃するのは、向こうの領空内を飛翔中のミサイルにレーザーを照射することになりはしないか。軍事素人の見地からは“武力行使”のようにも思えるが法的に大丈夫かとツッコミたくはなる(このあたり専門家の見解を今後知りたい)。

読売の記事が出た背景をちょっと“裏読み”

技術的、法的妥当性は一旦脇に置いて、「ニュース裏読みラボ」というオンラインサロンを主宰している身として興味深いのは、この時期になぜ読売新聞にこのような記事が出たことだ。読売の記事のネットで公開されている部分の最後は、こうある。

防衛省は2018年度概算要求に、迫撃砲弾や小型無人機などを迎撃対象とする、高出力レーザーシステムの研究費として、87億円を計上した。

概算要求に研究費が入ったこと自体は、それまで話題になっていないものの、一応、「公の事実」ではある。それでも「ダメ押し」で読売新聞に書かせる意味はどこにあるのか。役所のことを熟知している人には釈迦に説法だが、霞ヶ関では、これから概算要求をした各省庁と財務省による予算折衝が本格的に繰り広げていく時節だ。

防衛予算は4年連続で概算要求が5兆円を超え、実際の当初予算も16年度、17年度と5兆円の大台を突破。この予算折衝のタイミングで、北朝鮮が先ごろミサイルを発射したのは、防衛省にとってはまさに“追い風”だ。

読売記者に“日本版LaWS構想”をリークした時点では、北が核実験をする前だったが、情報提供者が防衛省の高官クラス、もしくはそれを超える地位の首脳クラスだとすれば、実験の具体的な兆候を掴んでいたはずで、世の中の話題を喚起し、国民の理解を広げて財務省に猛プッシュする材料を得たいという思惑を感じる。

コスト効果の検証なども隙のない“防衛”を

しかし、だからといって日本政府なりに最新の迎撃システムを独自開発しようという努力自体を否定すべきではないし、むしろ評価されるべきだ。ただ、財政が厳しい折であるわけだから、コスト効果の検証は重要だ。そこが甘いと野党に騒がれるだけではない。

新刊『朝日新聞がなくなる日 – “反権力ごっこ”とフェイクニュース』では、旧然とした「反権力ありき」のフレームワークから政権批判を繰り返すリベラルメディアのダメさ加減を指摘したが、朝日新聞や、武器輸出取材経験を売りにしている東京新聞社会部の女性記者あたりに突っ込まれる材料を提供しないように、行政運営上も隙のない防衛をしていただきたいものだ。
朝日新聞がなくなる日 - “反権力ごっこ"とフェイクニュース -

新田 哲史:宇佐美 典也
ワニブックス
2017-08-28
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新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長/NPO法人ICPF 情報通信政策フォーラム理事

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