独連立交渉が決裂、新たな選挙?

ドイツの連立交渉が決裂した。アンゲラ・メルケル首相が率いる与党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU・CSU)とリベラル政党「自由民主党」(FDP)、そして「同盟90/緑の党」の3党による連立協議は19日夜(現地時間)、FDPのクリスチャン・リンドナー党首が交渉テーブルから撤退を表明したことから、ジャマイカ連立政権(3党のカラー、黒・黄・緑がジャマイカの国旗と同じことから、通称ジャマイカ連合と呼ばれる)の発足は挫折した。その結果、連邦議会(下院)の新たな選挙の実施、少数派政権の発足、大連立政権の再現まで、さまざまなシナリオが囁かれ出している。

▲連立交渉から撤退を表明するリンドナーFDP党首(FDPの公式サイトから)

▲連立交渉から撤退を表明するリンドナーFDP党首(FDPの公式サイトから)

リンドナー党首は、「連立協議は政策的には前進がなかった。政党間で信頼と共同の土台が欠けていた」と指摘し、「間違った連立政権に参加しない方がベターと判断した」と、連立交渉のテーブルから離脱する背景を説明した。

交渉では、難民政策と環境問題が争点となってきた。前者では難民の家族呼び寄せ問題でCDU・CSU、FDPと「同盟90/緑の党」との間で違いがあったほか、地球温暖化対策では石炭産業の閉鎖を要求する「同盟90/緑の党」と他の政党間で対立があった。ただし、連立交渉に参加した関係者の話では、「妥協と譲歩に近づいていただけに、FDPの交渉撤退宣言は残念だ」という。リンドナー党首は、「政党が自身の政治信条を重視するのは当然だ。わが党もその政治信条を放棄してまで政権に参加する意思はない」という。

9月24日の総選挙から4週間に及んだジャマイカ連立交渉は一応、終止符が打たれた形だ。メルケル首相は20日、フランク=ヴァルター・シュタインマイヤー大統領に連立交渉の結果を報告し、今後の対応について協議した。

現時点では、3つのシナリオが考えられる。①新たに選挙を実施する、②CDU・CSUとFDPか、CDU・CSUと「同盟90/緑の党」の少数派政権の発足、③CDU・CSUと社会民主党(SPD)の大連立政権の再現だ。

少数派政権発足では、FDPが参加した場合は議会(定数709議席)の過半数355議席に29議席、「同盟90/緑の党」の場合は42議席がそれぞれ足りない。そのため、議会で不信任案が通過すれば政権はいつでも崩壊する危険性が出てくる。
メルケル首相は、「ドイツは欧州連合(EU)の中心的役割を担う国家だ。ドイツには安定政権が不可欠だ。第1党政党として政権組閣の使命を今後も担っていく」と述べ、安定政権の発足に向け、努力していく意向を重ねて強調している。

③の場合。CDU・CSUはSPDと大連立政権(399議席)を発足する道も考えられるが、シュルツSPD党首は20日、「わが党は責任野党としての役割を果たす考えだ。4次メルケル政権に加わる意思はない」と強調した。
ただし、SPD出身のシュタインマイヤー大統領が政権空白の長期化を回避するためSPD幹部たちを説得し、大連立政権を発足するよう要請することも十分考えられる。

①の場合、連邦議会を先ず解散しなければならない。メルケル首相は新政権発足までの暫定首相の立場だ。そこで議会はメルケル首相を新政権の首班に任命した後、議会を解散し、60日以内に新選挙を実施する、という長いプロセスが控えている。その場合、メルケル首相がCDU党首として総選挙に再び臨むかは不明だ。①の場合、メルケル首相の退陣、新党首の下でCDUが選挙に臨む可能性も排除できない。

問題は、新たに選挙を実施したとしても、現時点では各政党の支持率に大きな変化がないとみられていることだ。いずれにしても、ジャマイカ連立政権の道を失ったメルケル首相には4選を保証する選択肢はもはやなくなってきた。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年11月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。