診療報酬改定:調剤薬局の報酬ダウンと医師会のハラスメント --- 鈴木 智詞

寄稿

今回の報酬ダウンは調剤薬局の調剤報酬が集中砲火を浴びそうです。

診療報酬の改定を審議する中央社会保険医療協議会が調剤薬局の利益10%が吹っ飛ぶ基準調剤加算の廃止を発表しました。その背景には日本医師会の政治力が反映されていると想像するには容易です。

診療報酬改定の審議に先立つ時期に、日本医師会会長が調剤薬局業界をを卑しめる発言をしました。

「儲けすぎ」薬局に医師会が反発(Business Journal)

この記事をザックリと説明すると、大手調剤薬局の社長の年収が億単位であり、また調剤薬局は日本全国のコンビニよりも数が多い。これは調剤薬局の利益誘導で、限られた国民医療費を貪っているなどと言った論調です。

果たしてどうでしょうか。これは医師会の言い掛かりではないでしょうか。

確かに調剤薬局大手の日本調剤・三津原博社長の16年の役員報酬はは7億3700万円で、東証一部上場企業の経営者においては、屈指の年収です。

それに対して、日本調剤に勤める薬剤師の平均年収は552万円であり、年収の目安 として、薬剤師新卒が年収400万円スタートで、調剤薬局の店長になれば年収600万円です。大手企業に勤めるサラリーマンの大台と呼ばれる、年収1000万円には程遠い数字なのは、火を見るよりも明らか。調剤薬局の薬剤師が高給取りだなんて、まさに都市伝説です。

また、何故か日本全国のコンビニ数と比べられる薬局ですが、薬局は全国で約5万8000店に上り、コンビニの約5万4000店を僅かに上回っています。

しかし、このデータを観てください。

厚生労働省が発表した平成29年の医療施設動態調査では、病院と診療所の総数が17万件を超えています。さらに、いわゆる開業医が開設する医院 やクリニックを合わせたとしたら、薬局数なんて比較にすらならないでしょう。

これで分かるように、調剤薬局で働く薬剤師が儲けすぎな事もなく、薬局が多過ぎる訳でもありません。

それでも何故、医師会は調剤薬局を儲け過ぎと叩きたがるのか。それはビジネス市場でありがちな、限られたパイの奪い合いな利権争いです。つまり、縮小される 国民医療費において、難癖を付けて調剤薬局の利益から医師の取り分を差し引きたいだけのことなのです。調剤薬局にとってはとんだ言い掛かりです。

日本医師会に属する病院長や開業医は、日本の医薬分業が任意分業である事を逆手にとって、調剤薬局の開設に際し、交流会と称して、医師家族の旅行に同行する、料亭などの高級店で食事会をするなどを、調剤薬局開設者の経費で行わせる。 また、調剤薬局の儲けから病院やクリニックへキックバックするなど、その実態数の統計は無いものの、いわゆる商習慣として要求してきました。

もしこれらの商習慣を調剤薬局側がしない場合、暗に院外へ処方箋を出さないなどのハラスメントをちらつかせた医師は少なくないです。

これまで、そんな処方医と調剤薬局の(黒)紳士協定を結んでおきながら、今回の診療報酬改定で、調剤薬局のお金儲けをさせない利益誘導は、日本医師会の背信行為ではないかと断言しても、過言ではないでしょうか。

まだまだ調剤報酬改定は確定していませんが、厚生労働省から薬局数を減らすと明言されている調剤薬局業界にとっては、ゆゆしき事態であるのには変わりありません。

鈴木 智詞 調剤薬局の薬剤師
これまで大手ドラッグストアの薬剤師や急性期の病院薬剤師を務めてきました。