バロンズ:株主還元策とFedの金融政策正常化、エマージング諸国の逆風に

2018年06月11日 06:00

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バロンズ誌、今週のカバーは電池事業が与える電力業界へのインパクトを取り上げる。マサチューセッツ州にある人口8,000人の小さな町に、日本をはじめスイス、スウェーデン、ブラジルから来訪客が相次いでいる。彼らの目当ては、2016年後半に設置された輸送用コンテナの中身だ。そこには、2メガワットを蓄電できる2つの郵便受けのようなリチウムイオン電池が備えられている。こうした取り組みは進んでおり、米国では500メガワット相当の電力エネルギー在庫を有し、2025年には35ギガワットを蓄えられ、年間での操業コストを40億ドル節減できる見通しだ。米国の蓄電市場は200億ドル、強気派の間で300億ドルと試算され、消費者や企業は停電などに直面するリスクは低下するだろう。では、電力業界はどうなるのか。詳細は、本誌をご覧下さい。

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリート、今週は米企業の自社株買いを行う米企業、金融政策の正常化を進めるFedにスポットライトを当てる。抄訳は、以下の通り。

隆盛の影の側面—The Dark Side of the Boom.

ナスダックは4日週、過去最高値を更新し年初来リターンを23%高とした。米連邦準備制度理事会(FRB)が発表した1〜3月期の家計資産は史上初めて100兆ドルを突破し、金融危機後まもない2009年の水準から倍に膨れ上がった。失業率は3.8%で、求人数は失業者数を上回る状況だ。

その一方で、4日週は暗いニュースが飛び出した。ファッション業界の成功者であるケイト・スペード氏や料理界のカリスマであるアンソニー・ボーデイン氏が自ら命を断ち、激震が走ったものだ。米国では2016年の自殺者数が4.5万人に達し、出生率は30年ぶりの水準へ落ち込むなど、良い時代ではあり得ない事態が生じている。

月曜に株式取引を行うためにこのコラムを訪れた人々には申し訳ないが、こうした点は週末だからこそ熟考されるものだ。月曜には、あらゆるイベントを控えこうした事実が忘れ去られるに違いない。

G7首脳会合で、トランプ大統領は他6カ国の首脳陣から鉄鋼・アルミなど関税措置について協議を求められたに違いない。しかし、トランプ大統領は早々に切り上げて米朝首脳会談が開催されるシンガポールに飛んだ。米朝首脳会談で北朝鮮の”非核化”が協議されるなら、どのように定義れるだろうか?市場は、突破口期待し固唾を呑んで見守っているようには見えない。

また、12日の火曜にはAT&Tとタイムワーナーによる巨大合併に対する米政府の決定が下される。さらに、その日から米連邦公開市場委員会(FOMC)がスタートし、13日には利上げが発表されるだろう。同時に経済・金利見通しが公表され、2018年と2019年のFF金利見通しが明らかになる。ブルームバーグによれば、FF先物市場は9月25〜26日開催のFOMCの利上げ織り込み度は73%となっているが、それ以降は視界不明瞭の状況だ。

欧州中央銀行(ECB)の動向も、注目されよう。資産買入額は足元で毎月300億ユーロ(期限は9月まで)だが、14日の定例理事会では買い入れ停止を協議する見通しだ。日銀の金融政策決定会合を予定するが、政策据え置きの公算が極めて大きい。

市場の流動性はドルを中心に縮小し、インド準備銀行のパテル総裁はFedに金融政策正常化の代償について警告した。対外債務をドルに依存するエマージング諸国にとって、ドル高と金利上昇は痛手だ。

米企業はというと、現金を潤沢に保有しているように見えるが、富の不均衡が示すように一部の企業に集中している。RDQエコノミクスによれば、非金融企業の流動資産は1〜3月期に前期比667億ドルの2.7兆ドルに達した。負債資本比率は34.2%と前期の33.4%から上昇しつつ、依然として過去のレンジの下限にある。現金はというと、エバーコアISIによれば前年比14.5%増、名目GDP比では13.54%となったという。バッドニュースは、債務の増加だ。ほとんどが自社株買い目的の社債発行で、S&P500構成企業の自社株買い額は2018年に6,500億ドルと試算されている。

非金融企業の流動性資産、ITバブル時に名目GDP超え。

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(作成:My Big Apple NY)

バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチの信用アナリストは、投資適格級の非金融企業の自社株買いが1〜3月期に1,230億ドルと、前期の820億ドルから増加したと指摘した。マクロメイブンスのステファニー・ポンポイ氏はS&P500構成企業の上位25社が構成企業全体の現金保有高1.9兆ドルの56%を占めると指摘、反対に下位250社は実質ゼロと分析する。

TSロンバードの米国担当首席エコノミスト、スティーブ・ブリッツ氏は、米企業のレパトリが自社株買いを支える半面,海外の銀行からのドル流出を招いていると説く。その上で同氏は、1〜3月期に米企業が海外で計上した利益は年率(季節調整済み)6,320億ドル減と弾き出した。Fedの資産買入縮小額1,600億ドルを大きく上回るように、金融政策の正常化より企業のレパトリのインパクトが大きいと主張する。

Fedは10月から資産圧縮額を毎月500億ドルへ引き上げ、2019年12月までに保有資産を1兆ドル圧縮する見通しだ。6月6日時点での保有資産は4.279兆ドルで、前年から1,436.8億ドル圧縮されている。言い換えれば、資産圧縮はまだ初期段階にあるというわけだ。

Fedが保有資産を圧縮する裏側で、米財務省は税制改革法案成立を受けて拡大する財政赤字を補填するため米国債を増発している。2018年の米国債発行額はネットベースで1.169兆ドル2019年には1.171兆ドルとなる見通しだ。フィナンシャル・タイムズ紙でFedに警告を発したインド準備銀行のパテル総裁は、米財務省による米国債増発に適応すべく資産圧縮の規模を落とせば、米金利上昇に基づくドル流動性不足を抑制すると訴えた。しかし、Fedは海外要因が米国経済にいかなる影響を与えるか精査するにしても、海外の経済の影響を材料視しそうにない。

結局のところ、マクロ経済政策により現金保有高上位の米企業は株主還元策のため海外の利益をレパトリにいそしんでいる。現金を潤沢に保有していない米国以外の各国は、ドルの流動性逼迫に直面するに違いない。


非金融企業の流動性資産や現金保有高が増加基調であるとはいえ、株主還元策のために社債を発行中です。

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(作成:My Big Apple NY)

社債発行残高が6兆ドルを突破するなか、企業債務は名目GDP比で31.1%と過去最高近くで推移しています。バロンズ誌ではドル高と金利上昇がエマージング国にとって痛手と指摘していましたが、むしろシェール企業をはじめ資金調達を社債に依存してきた企業にとっても、利払い負担の増加など悪材料となります。2月の米株安局面で下落が著しかった企業は、同9日時点でレンジ・リソーシズで65.6%安、次いでチェサピーク・エナジーで58.2%安となりました。いずれも、シェール・採掘関連であると共に財務環境が良好とは言えない企業でしたよね。レンジ・リソーシズのDEレシオは約70%に達し、チェサピーク・エナジーも2016年の原油安局面で破綻観測が流れたほどだったため、米国債利回りの上昇が社債に飛び火する不安が台頭し、高債務の企業に売りが集まったことは想像に難くありません。

翻って、Fedは通商政策という不確実性を残しつつ、金融資産の「高まり」に警戒を表明済み。しかも米5月雇用統計は文句なしの好結果で、米4~6月期実質GDP成長率は3%を超える見通しのなか、エマージング国や債務比率の高い企業に配慮するかは微妙と言えそうです。

(カバー写真:David Sanchini/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2018年6月10日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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