顧客の視点でのリスクテイクで金融は甦る

2018年06月19日 11:30

金融は、今、リスク管理の高度化の裏で、本来の事業目的であるリスクテイクを見失いつつある。これは深刻な危機だ。危機から脱却は、新たなリスクテイクの確立である。では、新たなリスクテイクとは何なのか。その答えは、実は、とうに金融庁の森親信長官が示しているのである。

森長官は、例えば、銀行のあり方については、「顧客との共通価値の創造」といい、投資信託等の資産運用関連業務については、フィデューシャリー・デューティーの徹底、即ち、顧客の利益の視点で最善を尽くす義務の徹底というように、一貫して、顧客の視点を強調してきた。

また、銀行規制のあり方については、従来の「静的な規制」、即ち、数値的に一元化された諸リスクの集計値に対して、それを吸収するに足る自己資本等の維持を求める手法から、新しい「動的な監督」、即ち、「顧客との共通価値の創造」を促す対話への革命的な転換を志向してきた。

これらの意図するところは非常に明瞭で、金融機関に対して、顧客の視点での価値創造を本源的リスクテイクの対象に位置づけ、経営の最高の次元において、その具体的内容を自覚的に定義することを求め、その結果、リスクの管理の機能を、一つ下の次元の従属的経営統制機能として、再構成するように促すものである。

要は、森長官は、顧客の視点での価値創造ができないということならば、金融には、社会的存立基盤はなく、逆に、金融に社会的存立基盤があるのなら、必ずや、顧客の視点での価値創造ができる、つまり、事業としてなりたつはずだといっているのである。故に、今、経営者が早急にしなくてはならないことは、本源的リスクテイクの対象として、自己の存立基盤である顧客の再定義と再発見を行うことである。

顧客、まさに本源的リスクテイクの対象であるはずの顧客を見失ってきたことは、本源的リスクをも技術的なリスク管理の対象にしてしまい、顧客の視点での能動的リスクテイクを抑圧し、場合によっては否定してしまうという根源的な誤謬を招いてきたのである。これが金融の危機の本質である。

さて、顧客の視点での価値創造は、現場においてしかなされ得ない。その現場の創造的活動を、リスク管理の名のもとに、本部統制下においたことが問題だったのある。そのなかで、現場には、越権し、統制を強めてくるリスク管理に対して、強い批判と不満があったはずだ。しかし、その批判と不満も、次第に弱まり、今では消えつつあるのに違いない。この消えつつあることが危機なのである。従って、危機脱却の鍵は、現場の復権である。

 

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
HC公式ウェブサイト:fromHC
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