貸さぬも親切のおせっかい

2018年09月04日 11:30

城南信用金庫の理事長を務め、全国の信用金庫の発展に大きな功績のあった小原鐵五郎の名言に、「貸すも親切、貸さぬも親切」というのがある。これは、顧客からの融資の申し入れに対して、その顧客の真の利益を考えたとき、資金使途等からみて、貸さないほうが顧客の利益になる場合があるとの意味である。

小原鐵五郎は、不動産投機のための資金など、資金使途によっては、最終的には顧客の不利益になるという理由で、いかに十分な担保があっても断じて貸さなかった。融資を断られた人は、大いに不満足に思ったことだろう。

逆に、昭和のバブル期、融資を受けて不動産を買い漁った人の満足は、どれほど大きかったことか。しかし、それらの人の多くは経済的に破滅したのだから、金融界の行動は真の顧客の利益に反した結果を生み、その結果、金融界自身も巨額な損失を被ったというわけだ。

金融界が小原鐵五郎の哲学に忠実であったら、昭和のバブルは防げたであろう。小原鐵五郎は、顧客の真の利益を考えることが親切だと信じていた。故に、親切を貫く限り、顧客満足に反してでも、貸せないものは貸せないと考えたのである。そして、親切を貫くことは、結果として、信用金庫自身の安定した利益にもつながっていたわけである。

不動産融資だけの話ではない。例えば、住宅ローンの申し込みについて、真の顧客の利益の視点で家計の状況や家族構成などを総合的に検討するときは、融資を断って、賃貸を勧めるほうがいいときもあろう。貸すにしても、所得との関係で金額の適正化を図るべきことは当然である。

また、生命保険の死亡保障については、契約者本人の顧客満足を得ることは最初から困難である。顧客満足は、本人死亡後に、保険金受取人のもとで生じるほかない。故に、保障ニーズは、真の顧客の利益の視点にたった親身な生活コンサルティングのなかからしか創造されない。こうした需要創造こそ、真の保険営業なのである。

真の顧客本位というのは、顧客満足に反してでも、真の顧客の利益に適うことを意味する。小原鐵五郎の言葉では、顧客本位は「心配して差し上げる」ことであり、要は、おせっかいである。顧客の受け止めかたとして、顧客満足の高い顧客本位は親切と感じられ、顧客満足の低い顧客本位はおせっかいと感じられるだけのことである。

 

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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