児相移転で紛糾:南青山は是非「しあわせの隠れ場所」に!

田中 紀子

すでにネットやワイドショーで大炎上している、南青山の児相移転問題。
住民の傲慢かつ、無知な差別発言に多くの国民は怒り心頭状態です。

怒号飛び交う説明会の模様を、ネットニュースがまとめて下さっているので、
この騒動をご存じない方は是非ご一読下さい。

まず、このものすごい勢いで反対していた方々の意見をみてみましょう。
「南青山は自分で稼いで住むべき土地」っていう意見(笑)。
いやそんなの日本中どこでもそうです。南青山以外タダで土地が配られるというのでしょうか?

「私は納税者ですよ。港区民を愚弄するんですか」という意見も同様、この国の殆どが納税者であり、むしろ税金は軍事費などより福祉に使って欲しいと思っている人も多いです。
しかも個人の納税などたかが知れており、あなたは税金分より絶対に上回ったサービスを国から受けていますからどうぞご安心を。

それと、納税者だと言えば、傍若無人な態度が許されると思うのは大間違いです。
納税は国民の義務であり、当たり前のことですから。
愚弄などしていません。子供たちを守っていく!という当然果たすべき義務を果たしましょう!と言われているだけです。

次のエリート名門公立校に入れるために、億という投資をしてここに引っ越してきた方の意見。
いいお友達を作るためにもA学区に住む、という方がたくさんいらっしゃいます。
A小学校の方は皆さん、子どもの習い事・塾…たくさんしていてレベルも高いです。
もしその(児童相談所などの)子どもたちがお金がギリギリで、
A小学校にいらっしゃるってなった時にはとてもついてこられないし、
とてもつらい思いをされるんではないかな、ちょっとかわいそうではないかな、というふうに思います。

という、まわりくどく優しさを装った偏見発言ですが、一時保護をされる子は、別にお金がギリギリの家と限ったわけではありません。
金持ちでも貧困家庭でも、虐待などの問題はおきます。
そして、勉強ができない子でもありません。中には天才や秀才も保護されてくるでしょう。

また、公立の学校に入れたからには、誰が入ってこようが文句を言う権利などありません。
公立の学校は、平等に門戸が開かれています。
文句が言いたければ私立に行きましょう。私立もあなたに選別の権利などないですが。
あとは、お金が有り余っているなら、学校を経営するしかないですね。

ちなみに、我が家は土地が中央区の次に高く、超セレブがお住まいになる千代田区に隣接しており、そこには、日本一有名な名門公立小学校があります。
ですから子供達の幼稚園時代のお友達の中で、国私立の受験に落ちた子や、教育熱心なママは皆そこに越境させてましたが、入った後ママ友に聞いたところ「公立は、しょせん公立。特に変わらない。」「普通にいじめの問題も起きる。」と言っておりました。
公立小学校の内容と土地の高さは、別に関連がない様です。

また日銀の社宅は、うちの学区にもありますが、日銀の社宅=普通のサラリーマン家庭だと思われ、特に気取った方も、選民意識をお持ちの方もお見かけしませんでした。
みんな良い人達で、両親がギャンブル依存症である我が家の子たちとも、普通に仲良くして頂きましたよ。かわいそうなどと言われたこともありませんでした。

そして

「休日なんかに(外に)出ると、あまりにも幸せな家族、ベビーカー、着飾った両親、
カフェなどでおしゃれにあれ(過ごして)いる…そういう場面と自分の家庭を見た時のギャップというのを
どう思うかっていうことを、私はすごく心配しています。」

・・・という意見にはもう大爆笑してしまいました。

私は、娘と表参道の美容院に通っているのでよく知っておりますが、あの辺りはよそ者の方がずっと数多くうろうろしてますから、御心配には及びません。
かっこいい人もいれば、もっさい人もいる、ごく普通の東京の街です。
それに、何度も言いますが保護される子供のご両親も着飾っている可能性は十分あります。

港区の職員さんも頑張っているとは思いますが、もっとガツ~ンと言った方がいいですよ。どう考えても変な言い分で、だからこそこれだけ日本中が怒っている訳ですから。

いいですか、反対しておられる方々、あなた方もそしてあなたの大事なお子さん方も、南青山でバリアを貼って一歩も出ずに暮らすことなどできないのです。
いずれ高校、大学、社会人となって、様々な人間関係を持って生きていかねばなりません。

その時に、選民意識など何の役にも立ちません。
あなた方が大っ嫌いな、貧しい境遇で育ってきた人、施設で育つ人とも、普通に関わりを持つのが社会というものです。
大人になってまでそういう人達を偏見の目で見ていたら、今度は差別され、受け入れられないのは、あなた方のお子さんの方ですよ。

第一、境遇に恵まれず自暴自棄になっていたり、社会の片隅に追いやられ居場所を失っている人達を、少しでも社会全体で支え救い出してこそ、この国の安全が守られるというものです。

そして私の経験上、強いエリート意識を持った親の価値観を押し付けられた子供は、非常に息苦しく「優秀でなければ愛されない」と、ありのままの自分を否定し、自尊心を失っていきます。

優秀でならなければ認めてもらえないとなると、失敗を恐れ、行動することを怖がります。
そんなエリートでお金持ちの家庭に育った生きづらい人達を何人もみてきました。
子供の教育に必要なのは、多様性を知り、優しさや思いやりを教えること、これは全世界共通の認識ではないでしょうか。

最後に、反対をなさっている皆さんに是非みて頂きたい映画があるのでご紹介します。
それは2009年に公開された「しあわせの隠れ場所」です。
南青山で上映会したらどうですか?

ご存知の方もいるかもしれませんが、これはアメリカのNFLの選手マイケル・オアーさんの実話に基づくお話しです。
彼は、父親はおらず、母親はアルコールと薬物の依存症者で、13人兄弟の父親は全て違うという過酷な境遇に生まれました。

各地を転々として生活していましたが、ついにホームレスとなったところを、
裕福な家庭の白人のご夫婦が偶然出会い、なんと引き取って自分の家で暮らすことにするというお話しです。

字も読めなかったオワーさんは、成績が上がっていっただけでなく、アメフトで抜群の才能を発揮し、大学入学時にはスカウトマンが押し掛けてくるようになりました。
最終的にはドラフトでプロのフットボール選手となるのですが、これこそ「ノブレス・オブリージュ」真のセレブの姿じゃないでしょうか。

排除や差別からは何も生まれません。
そして、今は選民意識に酔っている人達だって、いついかなる時に自分が困窮することになるか誰にも分かりません。
その時、社会が受け入れ場所を作ってくれなかったらどうなるのでしょうか?
「セレブな場所に児相は来るな!」という理屈は通用しません。だったらどこならよいのですか?
そんなことを言っていい権利は、誰にもないのです。
むしろセレブだからこそ、恵みに感謝し、その恵みを分け与えるべきだと、私は思います。

恵まれない環境であっても、社会が大事に育てていけば、その子はやがて社会になくてはならない子に成長するはずです。
手を差し伸べる喜びを、みんなで分かち合おうではありませんか。
日本のいたるところに「しあわせの隠れ場所」ができることを、一納税者として願っています。


編集部より:この記事は、公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表、田中紀子氏のブログ「in a family way」の2018年12月18日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「in a family way」をご覧ください。