平成政治家ブログ小史①「初代王者」は誰だったのか?

2019年01月31日 06:00

平成の政治を振り返る上で、インターネットの普及に伴う変化は、昭和以前の光景と異質なものといえよう。ネット空間で作られる「世論」がどこまでリアルの政治に影響するのか、挫折や不発、局所的な存在感を示すという「試行錯誤」を繰り返してきたと言える(連載第1回)。

毎日新聞では1年前から逢坂巌・駒沢大准教授による連載「平成ネット政治史」が掲載されているが、政局とネットの関連が初めて世の中に顕在化したと言えるのが、ちょうど逢坂氏が今週振り返った「加藤の乱」(2000年)だった。自民党の名門派閥、宏池会を率いる加藤紘一氏が、ときの国民的不人気宰相・森喜朗氏を引き摺り下ろしにかかったが、失敗したというクーデターだ。

逢坂氏の連載でも紹介されているが、加藤氏は当時の政治家で開設している人が極めて少なかった個人の公式サイトに、国民向けのメッセージを連日アップ。「自民党は、日本の政治は、変わらなければなりません。そのために私は立ち上がったのです」などと呼びかけ、世論の糾合を図ったが、マスコミが騒いだくらいで自民党内の力学にはなんの影響もなかった。

ネット政治の挫折の典型例として語られがちだが、しかし、加藤氏に先見性があったのは確かだ。

20代以下の読者のために当時のネット事情を説明しておくと、ウィンドウズ95の日本発売でネット普及が本格化してから5年余り。無線LANが登場する前で、ネットにつながるにはPCに直接電話線を差し込み、接続時にはダイヤル音と「ピーヒョロロ〜」という雑音が響いていた。もちろんブログやSNSはまだ存在しておらず、創業数年のグーグルは日本進出前。ヤフーが検索エンジンとして社会に定着し始めたといった感じで、いまの20代からすれば実に牧歌的な光景だろう。そんな時代にネットから永田町を動かそうとした試みは、余りに早すぎた。

自民党議員が精力的だったブログ。いまやアゴラで活躍のあの人の名も

しかし、平成中盤以降に普及したSNSをはじめとするメディア環境の一大変化が、政治というアナログ岩盤の世界に風穴を開け始める。その一例が、ブログの登場と言える。特にライブドアブログやアメーバブログなどが登場して以降、誰でも手軽に発信できるようになり、政治家も情報発信のツールとして積極的に使うようになる。自民党も新しもの好きだった当時の若手中堅議員がいち早く使うようになった。

中川氏(自民党動画)、河野氏(SNS)

2007年12月6日、自民党がユニークなオウンドメディアをローンチした。その名は「サイトB」。自民党の公式HPに対する「裏サイト」としての位置付けで、各議員たちのブログの人気投票を試みた(現在は閉鎖)。1998年からHPで発信してきた元外相の河野太郎氏、小泉首相の側近だった中川秀直氏、プロレス界から転身した馳浩氏(のちの文科相)といった名前が並んだ。福田政権下の2008年3月18日付の毎日新聞を見ると、対決が過熱したあまり、組織票の動員が噂されるといったこともあったらしい。

毎日新聞は政治家ブログのネタがよほど面白かったのか、翌年6月には、OBの大物政治記者、岩見隆夫氏(2014年逝去)までが名物コラム「近聞遠見」で各党議員のブログのポータルサイト「ザ選挙」(当時)を紹介。「政界ブログ王」としてある政治家の名前をあげている。

法務政務官時代の早川氏(法務省サイト)

気になる「初代王者」は誰か。その記事の執筆時点の過去5日間のアクセスをもっとも集めていたのは…..なんと早川忠孝氏だ(!)。実際、早川さんの当時のブログを見てみると、この頃も1日数本、精力的に更新していた。

しかし、アゴラ読者の早川ファンには残念(?)なことに、岩見氏が指名したのは別の議員だった。岩見氏の取材に応じた「ザ選挙」の女性スタッフが前述の中川、河野両氏ともう一人を「永田町のブログ御三家」として紹介している。その女性スタッフの言葉を引くと「トップは文句なく山本さん」。そう。山本一太氏だ。こちらも早川氏に負けず劣らず、現在も1日に何本も書きまくっている

鮮やかな「ブログ政局」を作っている山本氏

政府サイトより:編集部

「朝まで生テレビ」で政策を語る時の山本氏はさほど尖っている印象はないが、筆を取るとおよそ自民党議員らしからぬ、砕けた書き方で、“自民党の音喜多駿”なのか“音喜多駿が山本一太をパクったのか”と、冗談を思い浮かべてしまう。

歯に衣着せぬため、議員秘書時代の中曽根康隆氏(中曽根康弘元首相の孫)の衆院選出馬を阻止しようと粘着質に批判記事を書きまくった時には新聞沙汰にもなった。うんざりした筆者は山本氏に対する批判記事を書いたこともあった。

ただし、過去の経緯はともかく、その山本氏が鮮やかな情報戦を仕掛け、ブログ政局で地元政界の主導権を握ろうとしているのは興味深い。

山本氏は今年夏の参院選には出馬せず、群馬県知事選に転身することを表明したが、出馬を決断するまでのプロセスにおいて、自身と現職知事の支持率を探った情勢調査の結果をブログで公表、前代未聞の炎上マーケティングに打って出た。もはや小池百合子並みの仕掛けだ。自民党議員でもテレビ出演の多い山本氏の知名度は知事を圧倒している。自民党群馬県連内に波紋を呼ぶ一方で、「全国区」の知名度と発信力に期待する県民も少なくないのは確かだろう。

ネット世論にとっても惨敗だった「加藤の乱」から20年近く。平成も終わりに差し掛かった今、都市部だけでなく群馬のローカル政局でもブログが影響を強めているのをみると、隔世の感を覚える。(続く)


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新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長/NPO法人ICPF 情報通信政策フォーラム理事

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