トランプ大統領の一般教書演説:重要ポイントはユダヤ社会へのアピール(特別寄稿)

2019年02月07日 12:00

トランプ大統領の一般教書演説は視聴者から概ね高い評価(CNN調査支持率76%など)を得ることに成功した。一般教書演説は大統領支持政党の視聴者が多いことを加味しても、この数字からは、米国民から同大統領の演説内容が好意的に受け止められたことがわかる。

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メディアは、白い服を着た女性議員達、国境の壁の再強調、民主党によるロシアゲート調査批判、北朝鮮との会談などを報道しているが、本稿ではそれらについてはあえて触れない。また、拙著『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)でも予言した通り、下院で過半数を割ったトランプ大統領がインフラ投資なども含めて超党派的姿勢を示すことは特に驚くべきことでもないので割愛する。

筆者の見立てでは、今回の一般教書演説は演説に対する単純な支持率以上の価値があった。そこで、他メディアではあまり指摘されていない同演説に組み込まれた重要なポイントに触れておきたい。

トランプ大統領は今回の演説に印象的な複数名のゲストを招いている。

それらゲストのうち演説の最後を飾った人物は、中東でテロリストの攻撃で米兵の息子を失った父親、ホロコーストだけでなく昨年のシナゴーグ乱射事件などで生き残ったユダヤ人(傷つきながらも救ったSWATメンバーも)、そして第2次大戦の時にユダヤ人をダッハウ強制収容所から救出した元米兵及び彼に救出されたユダヤ人である。

トランプ大統領は2018年一般教書演説でも最後に関係者をゲストとして紹介した北朝鮮情勢を大きく動かしてきた経緯がある。であるならば、今年、トランプ大統領が新たに外交で攻勢を仕掛けようとしている地域は中東情勢となる。

米国におけるユダヤ社会の影響力は依然として強い。また、政権発足当初のトランプ大統領は、反ユダヤ的傾向があると看做されていた。そのため、一昨年のシャーロッツビルでの左右活動家の衝突時にはユダヤ教のラビなどから激しい批判を受け、バノン首席戦略官の辞任、そして大統領を支える経済人の2つの会議の解散に繋がる事態を招いた。その後、トランプ大統領はエルサレム首都認定・米国大使館移転を表明するなど親イスラエル的姿勢を鮮明にしたが、今回の演説でもユダヤ人に寄り添う力強い立場を示したことになる。

それらの態度は、同演説でも強調されたシリアとアフガニスタンで米軍が役割を終える文脈で効力を発揮する可能性がある。シリアとアフガニスタンからの撤退は共和党議員から猛烈な反発(ランド・ポール上院議員以外)があり、民主党議員の間でも賛否が割れている課題だ。その理由として、米情報機関等が指摘しているISISやタリバンなどのテロ勢力の復活懸念などもある。が、シリアからの撤退に対する反発はイスラエル防衛の観点での批判によるところが大きい。

シリア撤退はトランプ大統領にとっては重要な選挙公約である。のみならず、長年の戦乱による疲弊から再建中の米軍のリソースを東アジアやベネズエラなどに割り振る上でも必須の作業である。しかし、既存の議会勢力には味方がほとんど存在しないため、トランプ政権にとっては過去最も実現困難な政策課題となっている。そのため、米軍撤退の実現には、イスラエルの安全保障について、ユダヤ社会からの安心と政策への圧倒的な支持を獲得することを必要としているのは間違いない。

また、国内政局から見てもユダヤ社会へのアピールは重要だ。現在、昨年の中間選挙で当選した民主党議員らの一部が、反ユダヤ主義者と密接な関係を持っているのではないかという疑惑が噴出しており、オカシオ・コルテス下院議員を含めて保守派やユダヤ系メディアからのネガティブ・キャンペーンの集中砲火を受けている。

同問題に対する民主党執行部の対処も詰めが甘く、トランプ陣営・共和党陣営にとって、それらの新人議員たちの存在はユダヤ社会を自陣営に完全に引き寄せるための良いネタになっている。2020年の大統領選挙に向けて地味ではあるものの、この問題はボディーブローのように効いてくるだろう。

米軍のプレゼンスの重心を東アジアにシフトさせるためには、現在進行形で行われている中東における作戦行動を一旦縮小することは必要不可欠である。米国が中国や北朝鮮に対して中途半端な態度しか取れないのは、中東情勢への過度な関与から撤退することができていないことの裏返しである。昨年、トランプ政権は北朝鮮の核開発という緊急事態への対処、そして、中国の国策企業に対する安全保障上の理由による締め出しを優先した。

しかし、現在は北朝鮮問題で一定の成果を得つつあり、中国との貿易戦争(安保問題も含めて)でも展望がある程度見えるようになってきている。そこで、今年のターゲットは本丸である中東情勢を片付けることにしたのだろう。

米国が東アジア情勢に対して真の意味で本腰を入れて対処するためには、いまだ数年の時間を要すると見て良い。

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渡瀬 裕哉
国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員

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