メキシコで州知事、上院議員のヘリ事故死に暗殺の疑い

昨年メキシコで殺害された人の数は33,341人、2017年は28,866人、2006年から数えると20万人が殺害されているという。(参照:infobae.com

内戦で武力戦争でもしている感じの多さである。特に、麻薬組織カルテルとその配下の暴力組織による大規模な犯罪が横行していることからこのような異常な数字が記録されるのである。

実は2018年の犠牲者の中に5人がまだ加えられていない可能性がある。この5人とは12月24日、クリスマスイブの日にプエブラ州の州知事と上院議員の他にパイロット2人と上院議員の秘書1人の計5人が搭乗していたヘリコプターが離陸して10分後に交信を絶ち、捜査の結果から墜落したのが判明したという事件である。

milenio.com YouTubeより:編集部

墜落したヘリコプターの原因究明にあたっていた調査グループが1月23日に声明を発表し、「地面と60度の角度で先頭からさかさまになった形で墜落していたというのが判明したのであるが、この墜落の仕方は普通ではない」と運輸通信省カルロス・モラン次官が記者会見の席で明らかにした。

また、ヘリコプターのエンジンから始まって各部分は米国、カナダ、イタリアで個々の部分を生産したメーカーに送って調査を進めているという。この調査の結果が判明するのは数週間あるいは数か月を要するとハビエル・ヒメネス・エスプリウ運輸通信相が同席で述べた。また、同相はネジが不足していると思われる部分もあるが、それは地面に突き当たった時の衝撃によるものと思われるが、専門家の原因調査に委ねることにするとした。

この種のヘリコプターの場合にはブラックボックスが搭載されていないために回収した部品などから原因調査することになっているという。(参照:milenio.comjornada.com

墜落したヘリコプターはこれまで僅か2074時間の飛行を行っただけである。カルロス・モラン次官が語っているように、どうしてそのような形で墜落するような操作をしたのか理解できないとしている。(参照:jornada.com

この事故の解明にメディアも興味津々なのはヘリコプターが飛行前に事故が起きるような仕掛けがされたのではないかという疑いが十分に持てるからである。というのは搭乗することになっていた州知事と上院議員による不正選挙の疑いが十分に持たれていたからである。

メキシコの中央部に位置する人口600万人のプエブラ(Puebla)州の知事マルタ・エリカ・アロンソ(45)と彼女の夫で上院議員ラファエル・モレノ・バーリェがクリスマスイブの24日、ヘリコプターでメキシコシティーに向かうことになっていた。

昨年7月に実施された州知事選挙で違反の疑いからマルタ・エリカ・アロンソが正式に州知事に就任したのは12月14日。即ち、就任するまで選挙裁判所の調査で5か月を要し、彼女が知事に就任して僅か10日後の今回の事故死だったのである。

7月の州知事選挙では、国民行動党(PAN)、民主革命党(PRO)、市民運動の3党の支持を集めたマルタ・エリカ・アロンソとアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドールを大統領にさせた大躍進の国民再生運動(Morena)が擁立したミゲル・バルボサとの争いとなった。その結果、票差は僅か4%、10万票の差でマルタ・エリカ・アロンソが当選した。票差が僅差ということと、しかも、投票箱が盗まれたり燃やされたりという事実も確認されていたことから、ミゲル・バルボサは今回の選挙は違法だとして.連邦選挙裁判所に訴えた。

その調査が進められた結果、4人の判事がマルタ・エリカ・アロンソの勝利を認め、3人の判事がそれを否認するという判決で、マルタ・エリカ・アロンソが州知事に就任したわけである。

彼女の夫のラファエル・モレノ・バーリェは2010-2017まで同州の知事だったということで、知事のポストが夫から妻に移されたというわけである。

敗訴したミゲル・バルボサは勝利を認めた4人の判事はマルタ・エリカ・アロンソの夫である前州知事で現在上院議員ラファエル・モレノ・バーリェの圧力に屈した結果だと表明した。(参照:elpais.cominfobae.com

プエブラ州は麻薬組織カルテルの中でも有力なロス・セタスとハリスコ・ヌエバ・ヘネラシオンが特に強い縄張りをもっている。政治家はカルテルと何らかの癒着を迫られる。それを拒否する政治家は自分の生命を危険にさらすことになるという。(参照:intoleranciadiario.com

プエブラでラファエル・モレノ・バーリェが7年間州知事を務めるには、其れなりにカルテルと関係を持っていたのは確かであろう。その影響が彼の妻であるマルタ・エリカ・アロンソを後任の州知事に据えるのにどこまで連邦選挙裁判所の判事に影響を与えたのかは不明である。が、選挙で敗戦したミゲル・バルボサは彼女の勝利を認めた4人の判事の判決には政治的な合意が存在していたはずだと推断していた。

このような背景がある故に、今回のヘリコプターの墜落事故は偶然とは思われないふしもある。敗戦したミゲル・バルボサが仕掛けたものだという憶測もある。

しかし、ラファエル・モレノ・バーリェはPANの有力議員であった。先の大統領選挙ではPANから大統領候補になる可能性もあったが、最終的に同党の大統領候補者となったリカルド・アナヤの前に敗れた。

PAN出身のビセンテ・フォックス元大統領は「事故の解明を要求する。プエブラの投票結果の調査の戦いの後に、この事故という巡り合わせは容易には受け入れることはできない」とツイートした。(参照:elpais.com

冒頭で言及したように、死亡したのは州知事と上院議員の二人の他に上院議員の秘書エクトル・バルタサールとパイロットのロベルト・コペルとマルコ・アントニオ・タベラの計5人であった。

ヘリコプターはエアタクシーサービスを提供しているセルビシオ・アエレオ・デ・アルティプラノ社からチャーターしたもので、プエブラの空港からメキシコシティー向かう予定だった。離陸してから10分後に交信が途絶えたという。

搭乗したヘリコプターAugusta A109 は2020年まで飛行許可認定を受けていたという。操縦した二人のパイロットも十分に経験を積んだパイロットだった。(参照:elpais.com

メキシコ政府は今回の調査に他国からの参加も要請していた。米国から検査官の参加も希望していたのであるが、現在米国はメキシコとの国境の壁の建設を巡って政府と民主党が対立して政府機関が一時閉鎖するという事態になっていることから検査に参加できないと米国から回答があったそうだ。(参照:elpais.com

メキシコ政府が外国からの検査官の参加にこだわるのはカルテルが政治や官僚そして警察らと癒着していることから、正確な調査の解明を進めるには外国からの検査官の参加が必要なのである。

だから同じく冒頭にも触れたように問題の部品を該当する国に送ってカルテルの影響が及ばない外国で原因の解明にあたってもらっているのである。