絵本は潤いのない日常で忘れがちな“大切なこと”を教える

左から『けい君とぼく』『やまもとさんちのにゃまもとさん』『おそろしくへんなローリー』。画像はみらいパブリッシング提供。

『ぐりとぐら』(福音館書店)をご存知でしょうか。私が子どもの頃、はじめて読んだ絵本になります。この作品は、中川李枝子(作)、山脇百合子(絵)による子供向け絵本のシリーズ。双子の、野ねずみ「ぐり」「ぐら」を主人公とする物語で、シリーズ累計発行部数は2,630万部を数えています。

先日、絵本出版.com「第二回絵本出版賞授賞式/出版発表会」授賞式・記者発表会に参加してきました(開催場所は神保町の「こどもの本専⾨店 ブックハウスカフェ」)。アゴラでもおなじみの、城村典子さん、松崎義行さんが手掛けている出版イベントです。

『ぐりとぐら』(福音館書店)

ノンフィクション作家の柳田邦男は「絵本は人生で3度読むべきもの」と解説しています。3回とは、「自分が幼い時」「親になって子どもを育てる時」「人生の後半、祖父母の時」の3回。よい絵本は歳を重ねていっても読むたびに新たな感動があります。新たな感動とは、年齢によって異なる視点が楽しめるということです。

いまは、出版不況と言われています。絵本は、子どもを対象にしたものと考えていました。しかし、最近では絵本の特性から大人にも人気が出ています。文章の技法でオノマトペというものがあります。国語の教科書にも載っていて、フランス語で擬声語(擬音語+擬態語)のことを指します。

擬音語は犬の鳴き声を「ワンワン」、チャイムの音を「ピンポン」というように、文字で表せない「音」を文字化します。擬態語は音ではなく、「様子」を文字にするもので「ピカピカ」「ドキドキ」など種類が多く、より豊かな表現が可能となります。子どもの絵本では、定番のオノマトペも、大人になってから聞くと、ずっとイメージしやすく、自分の感情を重ねやすいことがわかります。このような解釈は幼い時にはできません。

今回の受賞作品は、今後、商品化がすすめられていく予定とのこと。城村さん、松崎さんが経営する、「みらいパブリッシング」から上梓が決まった3冊を紹介しておきます。

けい君とぼく』(魔夜峰央(著)、みらいパブリッシング)
やまもとさんちのにゃまもとさん』(ピイキチナツ(著)、みらいパブリッシング)
おそろしくへんなローリー』(絵:はらふう 作:はらひで、みらいパブリッシング)

大人になったいま、絵本と向き合うと、幼い時には気付かなかったメッセージに気付くことがあります。潤いのない日常で忘れがちな大切なことを教えてくれます。絵本と向き合うことで自分の感性と向き合うことができるでしょう。今回の、授賞式・記者発表会で、絵本の持つ可能性を改めて認識しました。受賞の皆さまの前途を祝します。

尾藤克之
コラムニスト、明治大学サービス創新研究所研究員

※筆者11冊目の著書。文章の技術をわかりやすく平易な内容に仕上げました。
即効!成果が上がる文章の技術』(明日香出版社)