性犯罪問題への対応で揺れる法王

ローマ法王フランシスコは、フランス教会リヨン大司教区のフィリップ・バルバラン枢機卿(68)の大司教辞表を受理しなかった。同枢機卿は今月7日、聖職者の未成年者への性的虐待事件を隠蔽したとして執行猶予付き禁固6カ月の有罪判決を受けたばかりだ。枢機卿は上訴している。

▲6カ月の執行猶予付き有罪判決を受けたバルバラン枢機卿(バチカン・ニュースのHPから)

▲6カ月の執行猶予付き有罪判決を受けたバルバラン枢機卿(バチカン・ニュースのHPから)

バルバラン枢機卿はフランス教会では性犯罪問題で有罪判決を受けた最高位の聖職者だ。それだけに、判決が明らかになると、フランス教会ばかりかバチカンでも大きな波紋を呼んだ。同枢機卿は判決が明らかになるとフランシスコ法王にリヨン大司教職の辞任を申し出た経緯がある。

フランスTV放送によると、同枢機卿は18日、フランシスコ法王を謁見し、辞任の意向を正式に伝えたが、法王は受理しなかったという。同枢機卿はインタビューの中で、「フランシスコ法王は裁判の行方を注視してきた。法王とは判決前、会って話し合うことになっていた。判決が明らかになった後もその約束は変わらなかった。大司教という立場は神が与えたミッションだから、そのミッションを辞任するという表現は不適当だろう。教会では全て法王の判断次第だ。法王が辞任願いを受け入れなかった以上、もはや何もいえない」と説明している。

枢機卿の罪状は、1980~90年代、ベルナルド・プレナ神父が犯した性犯罪を知りながら警察側に告訴せず、隠蔽した容疑で、バルバラン枢機卿と5人の教会関係者が訴えられていた。今年1月の段階では検察当局は「有罪にもっていくのは無理」と判断していたが、リヨンの裁判官は「犯行は許されない」として執行猶予付きで禁固6カ月の有罪判決を下した。有罪判決は、カトリック教会の高位聖職者に対する信者や国民の目が厳しいことを物語っている。

興味深い点は、同時期、フランシスコ法王はチリのサンチャゴ大司教で同国教会の最高指導者リカルド・エザッティ枢機卿(77)の辞表を受けいれていることだ。チリ教会では聖職者の未成年者への性的虐待事件約150件(250人以上の犠牲者)が捜査対象となってきた。フランシスコ法王は昨年6月10日、聖職者の性犯罪の隠蔽に関与したとして1人の大司教と2人の司教の辞表を受理している。同枢機卿自身は、「自分は容疑内容を隠蔽したことがない」と無罪を繰り返し強調してきた。

フランシスコ法王はチリ教会の聖職者性犯罪問題では信者や犠牲者たちから批判されてきた聖職者をかばい、「彼が性犯罪を隠蔽した証拠はない」と主張し、後日、自身の判断の間違いを認めざるを得なくなった、といった大失策を犯した。

フランシスコ法王は今回、聖職者の性犯罪を隠蔽した容疑で執行猶予付きながら有罪判決を受けたバルバラン枢機卿の辞表を受け入れなかったことで、リヨン大司教区ばかりか、フランス教会にも戸惑いが見られる。

ちなみに、バルバラン枢機卿とエザッティ枢機卿の辞任申し出に対するフランシスコ法王の対応が異なったのは前者が68歳と若いが、後者が現役司教の実質的定年の75歳を超えていたから、という声も聞かれる。

聖職者の未成年者への性的虐待問題では犯罪を犯した聖職者だけではなく、それを隠蔽した教会上層部の責任も大きい。フランシスコ法王は聖職者の性犯罪では“ゼロ寛容”を強調してきたが、性犯罪を隠してきた教会上層部への対応で“揺れ”が見られることは事実だ。

フランシスコ法王自身もブエノスアイレス大司教時代、聖職者の性犯罪を知りながらそれを隠してきたという容疑が囁かれてきた。法王には、性犯罪を犯した聖職者とその事実を隠してきた教会指導者は同罪であるという認識に欠けている。

バチカンで先月22日から4日間、聖職者の未成年者への性的虐待問題への対策をテーマに世界司教会議議長会議(通称「アンチ性犯罪会議」)が開催されたが、その後も聖職者の性犯罪が報じられている。

オーストリア教会の最高指導者シェーンボルン枢機卿は24日、同国日刊紙クローネンとのインタビューの中で、カトリック教会の聖職者による性犯罪が絶えない背景について、「イエスの福音を生活で正しく実践していないからではないか」と指摘している。

ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年3月25日の記事に一部加筆。