台風15・19号、HPもメールも繋がらない…地域の災害情報が届かなかった理由

ホームページでもメールでも情報発信できなかった23区の公立小中学校

今年9月には台風15号、10月には19号と、関東では大型台風が連続して上陸し、各地で災害時の情報発信体制の脆弱さが露呈した。国レベルでも課題となったが、都内の自治体でも課題は山積みだ。

NHKニュースより:編集部

台風15号の時には、日曜深夜の暴風雨の後の翌朝月曜日、都内では500校以上の公立小中学校が休校となり、1300校が始業時間の繰り下げを行った。都内ほぼ全域で月曜朝8時まで電車が運休していたため、休校でなくとも学校が通常通り授業開始できるのかと不安に思った親が、こぞって学校ホームページ(以下、HP)にアクセスしたため、アクセス集中により災害用簡易版HPに自動的に切り替わった。しかし、この簡易版HPに情報を載せ忘れた学校も多く、情報が伝わりきらなかった。

一方で、23区内の多くの自治体で利用されている、見守りメールシステムで、各学校が各家庭に学校運営状況を通知しようとしたために、見守りメールのサーバーにアクセスが集中し、システムダウンするという事態に陥ったため、各区の学校からメールでの一斉連絡ができなくなった。ホームページでもメールでも情報発信ができなくなった学校は、電話連絡網を回し始めた。

このように、アクセスが1カ所に集中すると通信障害が発生し、これは従来から指摘し続けてきた課題である。

「自治体情報セキュリティクラウド」の功罪

その後、10月には史上最大規模と言われる台風19号が関東に上陸し、23区各地でも避難勧告レベルが上がっていくなか、ローカル情報を得るために、やはり今回も区役所のホームページにアクセスが殺到した。ただ、今回は、区のWEBサイト単体の問題ではなく、都内全区的に役所へのアクセス集中が発生したため、東京都のセキュリティクラウドが通信の混雑を招き、結果として全区的にホームページが繋がりにくくなるという状況が発生したのだ。

この「自治体情報セキュリティクラウド」というのは、日本年金機構の情報漏洩事故を受けて総務省が各自治体に対して求めたセキュリティ対策の1つで、都道府県が構築し、市区町村が参加するクラウド上のセキュリティシステムである。

自治体情報セキュリティクラウドの図(総務省資料より:編集部)

利用方法としては、まずは、各自治体でLGWANなどの行政系ネットワークと、メールやホームページなどインターネット系のネットワークを分離した上で、インターネット系のネットワークに接続する際にこのセキュリティクラウドを経由させる。外部からインターネットを通じて役所のWEBサーバーに接続する際も、このセキュリティクラウドを経由するため、災害時など、役所のホームページにアクセスが集中するとこのセキュリティクラウドも混雑する。

(参照:総務省「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」)

ただ、これだけ高度の情報通信技術が発達している現在では、区役所のホームページが「見れない」「繋がらない」事象が発生する原因は、複数考えられる。市区側のサーバー状況や回線状況、ホームページを閲覧する人の通信状況や端末スペック、等々、今回の事象に関しては、東京都のセキュリティクラウドの混雑が、全区的に発生したHPの繋がりにくさの一因であることは確かだが、それだけが課題であるとは言い切れない。

他方で、HPへのアクセスにおいてこのセキュリティクラウドを利用していない区や、CDN(コンテンツ・デリバリー・ネットワーク)など、独自の対策を導入している区では、繋がりにくい状況は発生しなかったという。しかし、CDNのようなミラーリング対処では、WEBサーバーへのアクセスができない以上はHPが更新できないという根本的課題もある。

高度なレベルで、アクセスログの監視や、不正な侵入を検知したりといったセキュリティを備えるためには、市区町村ごとでの構築は、コスト的にも実務的にも困難かつ非効率であるため、小さな自治体においては広域での対策が適している。

一方で、災害時などの緊急時に、都道府県のセキュリティクラウドの影響で市区町村の情報発信が一斉に影響を受け、自分たちではどうにもならない・・という事態を避けるためにも、セキュリティクラウドを介さない、災害時の情報発信のための独自のルート作りも必要ではないか。

インターネットを使った情報発信ができるようになり、防災無線しかなかった時代よりも格段に情報到達の可能性は高まっている。一方で、文字情報を受け取れない方へのオートコールでの安否確認など、地域事情に合わせたきめ細やかな情報通信対策も必要だ。

以上のように、単体でのアクセス集中対策、広域でのアクセス集中対策、そして独自の通信手段の確保、文字以外の伝達手法・・・災害時に、適切なタイミングで情報を確実に伝えていくためには、1つの手法で安心してはならず、複数の手段を講じる必要があり、そこに基礎自治体の知恵と工夫が問われている。

山本ひろこ 目黒区議会議員(立憲民主党)
1976年生まれ、広島出身、埼玉大学卒業、東洋大学院 公民連携学修士、東京工業大学 環境社会理工学院 博士課程在籍。 外資金融企業でITエンジニアとして勤務しながら、3人娘のために4年連続で保活をするうちに、行政のありかたに疑問を抱き、政治の世界へ。2015年初当選(現在2期目)。PPP(公民連携)研究所、情報通信学会、テレワーク学会、日本税制改革協議会に所属。夫が障害者となり、健康管理士取得。