国民の半数近くが貧困層…日本も他人事でないアルゼンチン経済

2019年12月05日 06:01

アルゼンチンで貧困層の急増に注目が集まっている。人口に占める貧困者の割合は35.4%。即ち、アルゼンチンの人口およそ4500万人の内の1590万人が貧困層にあるということなのである。また、340万人が極貧者だとされて、その割合は7.7%。すなわち43.1%のアルゼンチン人が貧困状態に置かれているということなのである。国民の半数近くが貧困者ということは国家の危機である。

Kathy Drasky/flickr

止まらない貧困層の増加

1950年代から貧困層が最大だったのは2001年の55%であった。現在はそれに次ぐ貧困者の多さだとされている。(出典:perfil.com

マクリ大統領が2015年に大統領に就任した時に、彼の選挙キャンペーンで「貧困者ゼロ」というのをスローガンに掲げていた。彼はクリスチーナ・フェルナンデス前大統領から29%の貧困層を引き継いだ。それをゼロにするというのが彼の目標であった。

ところが、彼の4年間の政治で貧困者は彼が政権に就いた2年目から逆に毎年増加して行ったのである。現在の深刻な経済事情からマクリ氏の政権が終了する今月末には貧困層は39%から40%に到達すると予測されている。

事態が尚更深刻なのは国の将来を担う青少年の貧困がより顕著になっていることである。15歳未満だと僅かこの1年で41.4%から52.6%に急増。即ち、500万人の少年少女が貧困層にあるというのである。また、極貧者も8%から13.1%に急増している。

Pablo Flores/flickr

青年となる15歳から29歳まででは貧困者は42.3%。また失業などが影響している30歳から63歳までだと30.4%が貧困者となっている。(参照:perfil.com

貧困層も地域によって異なり、北東部エントゥレ・リオス州のウルグアイとの国境に近い15万人の都市コンコルディアでは貧困層の割合は一番高く52.9%を記録している。(参照:kontrainfo.com

インフレが生活を直撃

現地紙『Página(パヒナ) 12』(10月1日付)は子供二人がいる35歳の夫婦の収入例を挙げている。彼らは共稼ぎで2016年5月には毎月12,356ペソ(23,100円)の収入があった。今年9月には32,823ペソ(61,400円)と収入が増えた。僅か3年間で収入はインフレのせいで2.7倍に上昇したのである。

最低必需食料品は2016年が6,110ペソ(11,400円)であったのが先月には16,181ペソ(30,000円)に上昇。その値上がり幅も2.6倍で彼らの収入の増加にほぼ匹敵している。

2016年の規定最低賃金は6,060ペソ(11,300円)で先月9月のそれは12,500ペソ(23400円)。その上昇率は2倍となっている。

この夫婦の場合は最低必需食料品の購入は可能であるが、最低賃金しか稼いでいない場合は最低必需食料品のすべてを購入できないということになる。

現在、二人の子持ち夫婦の平均収入は18,437ペソ(34500)ということで同じ家族構成での極貧者の場合は7,733ペソ(14,500円)の収入しかない。即ち、前者の場合は最低必需食料品の購入は可能であるが、余裕のないに生活となる。後者の場合は最低必需食料品を全て購入することはできない。(参照:pagina12.com.ar

緊縮財政ができない国の宿痾

アルゼンチンは慢性的にインフレが高い国だ。その問題の根幹にあるのは1945年以降、財政赤字の抜本的な削減に取り組んだことがないことがあるようだ。緊縮財政が出来ない国なのである。常に歳出が歳入を上回ることを繰り返している。そして必要に応じて紙幣を発行している国だ(今の日本に似ている)。

戦後、ペロン将軍が大統領になると、国の基幹産業を国営化して国家レベルの発展を図り経済成長した。また、労働者にも恩恵がわたるようにと公共支出も増加させた。

フアン・ペロン(Wikipedia)

一方、一国による自給自足経済が主体になり輸出の発展が後退。最終的にそれがもたらしたものは止むことがない歳出による財政赤字の拡大と高いインフレであった。インフレを抑えようとして金利を上げて正常な企業経営も困難させて来た。

また、アルゼンチンの国民は自国の通貨よりもドルを信頼している。ドルを常に保有したがる。特に、国内が不況になるとその傾向が強くなる。その影響もあってペソは対ドル切り下げが続き、それがまたインフレの上昇を加速化させている。

ペロン将軍の政権下でのアルゼンチンの経済発展を称賛する者は今も多く、彼の政治思想を継いで誕生したのが正義党で、「ペロニスタ」と呼ばれるようになった。それが現在も続きアルゼンチンはペロニスタによる政治が行われて来た。唯一、3人の大統領がアウトサイダーでいる。その一人がマクリ大統領である。

しかし、今月大統領に就任するアルベルト・フェルナンデスはペロニストである。さらに、アルゼンチンの特徴は国の経済規模に比較して輸出が少ないということ。それが慢性的に外貨の流入が少ないということにつながっている。

インフレを招く根深い構造

さらに、インフレの上昇を誘う要因としてあるのが労働組合の存在である。アルゼンチンはラテンアメリカで労働組合が最も力をもっている国である。労働者の4割が労働組合に依存しているとされている。そして常に時の政権に癒着している。

インフレの上昇が続くと、彼らはインフレ上昇率以上の賃上げを要求して来る。それに政府が応えなければストを実行するというのが彼らの常套手段である。政府はそれに応じるべく賃上げを容認する。それがまたインフレの上昇を招くことになる。

マクリの4年間の累積インフレは256%。前任者のクリスチーナ・フェルナンデスの2期目のそれは183%であった。(参照:infobae.com

そしてインフレから開放されない理由がもうひとつある。各産業部門で寡占化が顕著になっていることである。そこから企業間の競争が少なく企業は市場での価格競争を避けることが出来て自社の利潤追求に向かうことが比較的容易にできる。例えば、200社の大手企業の内の60社は市場で100%のシェアを占めているというのである。

例えば、自動車の部品でも80%から90%はアルゼンチン国内で生産できる能力を持っているにもかかわらず、30%程度しか生産しない。それによって少量の生産で割高な価格を維持する。それは勿論、量産しての売上に比べ低い。しかし、そのようにして法人税を低く抑えようとするのである。そのようにして得た利益はタックスヘイブンの国に送金する。(参照:lacapital.com.ar

アルゼンチンは1944年から1桁インフレは13年、大半は2桁インフレで44年繰り替えして来た。1989年と1990年は4桁のインフレで、特に1989年7月は一時5000%のインフレを記録した。(参照:infobae.com

更に現在の不況を示すものとして昨年12月に企業は生産設備の56.6%しか稼働していなかったということが判明している。それは2002年以来、最悪の生産稼働率だという。不況で需要が減少している表れである。

そこから企業は従業員の解雇あるいは一時帰休で対応しようとする。この2年間で4800社余りが市場から姿を消している。それがまた雇用の喪失を生んでいる。(参照:politicargentina.cominfobae.com

ブエノスアイレスのスラム(C64-92/flickr)

往年の経済大国、見る影もなし

19世紀末から1920年代までアルゼンチンは世界で最も豊かな国のひとつだった。それが現在まで8回のデフォルトを起こすほどの凋落ぶりである。

スペインのバクス地方を郷里に持つウルグアイのエンリケ・ムヒカ前大統領(2010-2015)があるインタビューに答えてアルゼンチンのことを次のように語っている。(出典:pagina12.com.ar

私はウルグアイ人だが、ブエノスアイレスの港から蹴飛ばされたアルゼンチン人だ。だからアルゼンチンがどのように見えるかということに触れるのは余り都合がよくない。あたかも自分の国のように感じているが、(ウルグアイ人だから批判すると)誤解されるようになる。

不安を感じながら言えることは、アルゼンチンが上手く行かないと、(その影響で)我々ウルグアイは強打を受けることになってしまう。

アルゼンチンは余りにも自然資源に恵まれているというのが不幸だ。だから無駄ずかいするようになってしまう。だけど、私の里だ。胸が痛む。

経済危機にあるアルゼンチンの将来を懸念しているのである。

白石 和幸
貿易コンサルタント、国際政治外交研究家

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