もし新型肺炎拡大で習近平の国賓訪日延期ならツケは大きい

2020年02月10日 06:01

中国武漢から始まった新型コロナウイルスのグローバルな感染拡大ぶりは、中国が掲げる「一帯一路政策」の皮肉な先ぶれパターンのようにもみえる。しかもその罹患者と死者の圧倒的な数字のほとんどが中国国内のものだということを冷静にみるべきだろう。

12月の日中首脳会談より(官邸サイト)

さらに4月とされるその中国の習近平国家主席の国賓としての訪日問題が、予定通りか、延期されるのか、コロナウイルスの感染拡大とともに大きな山場を迎えているが、水面下での中国との折衝で、これまでも行われた巧みな中国の外交交渉術により、日本が翻弄される懸念がある。かつてメディアを巻き込んだ「尖閣問題棚上げ論」が、その代表的ケースだったことを思い出す。

鄧小平(Wikipedia)

尖閣問題棚上げ論という、この巧みな中国の外交交渉術が行われたのは1978年の、中国の当時の最高実力者、鄧小平副首相来日会見だった。日本記者団代表が「われわれは尖閣列島(当時の表現)を日本固有の領土という立場だが、この問題をどうお考えになるか」と質問した。

鄧小平は、「双方に食い違った見方がある。中日国交正常化、中日平和友好条約交渉でも『この問題に触れないことで一致した』。中国人の知恵からもこういう方法しか考え出せない」とニッコリ笑った。

この鄧小平会見以降、「尖閣棚上げ」が、日本メディアの紙面、テレビで踊ることになったのだ。それ以後日本政府がいくら、「尖閣問題は棚上げではなく、日本固有のもので、領土問題は存在しない」と言っても後の祭りだった。4000年の知恵がはぐくんだ中国の伝統的な交渉術では、この鄧小平会見でも日本側メディアに対して、どうぞ記者の皆さん、尖閣問題を鄧小平閣下に、遠慮なく質問して下さい、とささやいたのだ。日本は官民そろって、中国の術中に見事にはまった。

わたしは米中国交回復に至る米中央情報局(CIA)/ランド研究所の報告書『Chinese Negotiations』(邦題『中国人の交渉術』文藝春秋社刊)翻訳に参画したが、この米中国交回復のプロセスでも、中国のこのささやきのテクニックは、何度も使われている。メディアを巻き込むのもその代表的な手管のひとつだ。

アメリカは米中国交回復へのプロセスを教訓として、今後の実務的外交交渉のケースメソッドとして対応することを考え、この中国人の交渉術報告書をつくった。だが、日本は対中関係を通常の外国とは見ない。おそらく依然、古来友好、一衣帯水、同文同種と信じている。2000年7月の沖縄サミットでは、日本は中国をゲストとして招待しようとした。

しかし中国は古来、台湾を「小琉球」、沖縄を「大琉球」と呼んでおり、伝統的な”宗主国”として、政府代表が公式に沖縄の地を踏むことはない。日本はまだそこに気づかない。

また中国人の交渉術のケースメソッドでは、中国は外交上格下とみる相手国には、そのような礼で接することが指摘されている。「外交非礼メソッド」というべきもので、日本に対しては、2005年5月に愛知万博視察のため来日した中国の呉儀女史(当時、国務院副総理)の行動が当てはまる。

呉儀女史は小泉首相(当時)との会談の予定だったが、急きょキャンセル、帰国した。表向きは緊急の公務ということだが、極めて非礼な行動だった。会談直前の国会での小泉首相の靖国参拝に関する発言が原因の、中国の得意とする外交シグナルだ。

中国外交部(外務省)はすでに、重要な外交日程を順調に進めると、習近平国家主席の訪日を含めて語っており、日本側も菅官房長官が会見で、予定通り行うべく準備を粛々と進めており、日本から延期を求めることは想定していないと、予定通りに実施したいという表向きでの考えを示しているが、日中両国の内面はそうではあるまい。

仮に近い将来「中国最高首脳訪日延期を日中両国が合意」とでも発表があった場合でも、内情は違う。どちらの国が最初に延期を持ち出すかで、大きく立場は変わるだろう。

武漢へ邦人救出に向かったANAチャーター機には、大量のマスク、防護服が大量に積載されていたようだが、仮に水面下の外交で日本が延期を申し出るような、ぶざまな姿を見せた場合、おそらくそのとき、大量のマスク、防護服どころか、新型ウィルスまん延での国際的イメージ失墜を補って余りある、何らかの成果を日本から勝ち取ろうとするはずで、その懸念が大きい。中国は外交上格下とみる相手国には、そのような礼で接する大国なのだ。

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