アビガンを新型コロナウイルス肺炎に試験的に投与⁈

中村 祐輔

コロナウイルスについては触れないつもりだった。日本の現状は予想した通りで、これ以上のコメントはしない。しかし、新型コロナウイルス感染症にアビガンという治療薬の試験的投与を始めると報道していたので、どんな薬なのかウィキペディアで調べてみた。

そこには、「ファビピラビル (アビガンは商品名は、富山大学医学部教授の白木公康と……富山化学工業(現:富士フイルム富山化学)が共同研究で開発したRNA依存性RNAポリメラーゼ阻害剤である」と記載されていた。この白木教授は私の大阪大学の同級生だ。懐かしい名前を聞いた。患者さんのためにも効果があって欲しい。

医薬品医療機器総合機構サイトより

このアビガンは、インフルエンザに対する効果は高いことが証明されているが、マウスで催奇形性があるために、ブレーキがかかっているようだ。ウイルスは自ら増殖できず、細胞にある道具を勝手に使って増殖している。動植物はDNAの形で遺伝子を受け継いでいるが、ウイルスには、DNAの形を持っているものとRNAを持っているものがある。

B型肝炎ウイルスは、DNA型だ。そして、コロナウイルス、インフルエンザウイルス、エイズウイルスはRNAタイプだ。このRNAウイルスはRNA依存性RNAポリメラーゼというRNA合成酵素を持っており、自らのウイルス遺伝子を増やしている。 

人はRNA依存性ではなく、DNAからRNAを作り出しているので、これらのウイルスとは仕組みが異なる。アビガンは、RNAのウイルスのRNA合成を妨げる働きをしており、それによってウイルスの増殖を妨害している。人は持っていない酵素なので、理屈の上では副作用は低いはずだが、RNAを作り出す酵素にはウイルスから人まである程度の類似性がある。

したがって、それが催奇形性に関連しているのだろうが、その点は調べた資料からはわからない。また、余談だが、このようなDNARNAを作り出す酵素やDNA修復酵素には、驚くほど人種間の多様性が低い。 

エイズ治療薬(HIVウイルス増殖阻害剤)やインフルエンザ治療薬をこのコロナウイルスの治療薬として応用する検証が始まっているのは、RNA合成酵素阻害を期待してのことだ。「効くか効かないかわからない」とコメンテーターが発言していたが、何ら治療薬がない肺炎患者に、論理的に科学的に考えうる治療薬を検証することに何の問題があるのだ。

効くか効かないので何もしなければ、その患者さんはどうなるのか、硬直したがん医療に対する一部の医師たちと同じ発想だ。海外で薬剤の効果が検証されるまでは、日本の患者さんは、黙って見ているだけなのか?

生命の危機にさらされている患者さんに、科学的根拠があっても、「効果があると証明されていない=エビデンスがない」という医師の姿勢こそ、問題だ。こんな貧困な発想だから、いつまでたっても日本は周回遅れなのだ。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2020年2月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。