『ALSの息子を持った母』の古希に寄せて 〜 もう何もしなくていいよ

昨年父が古希を迎えて、今年母が古希を迎えました。それぞれ身体に少しずつダメージは抱えているもの、さしたる介護の必要もなくこの年まで元気でいてくれるのは、本当に有り難いことだと思います。

私がALSになって誰よりも心を痛めたのは母だと思います。母はALSの私に何もできないもどかしさを心底感じていると思います。私の実家は自宅から車で約20分です。父は何かとかこつけて月に1回程度は様子を見に来ますが、最近母とはご無沙汰です。

もちろんコロナの影響と母は足を悪くしているのもあるかも知れません。しかし一番は「行っても何もしてあげられない」という無力感だと思います。あくまでも私の推測ですが。

私は母の料理が大好きでした。学生時代も帰省するたびに私の好物が、食卓にずらりと並びました。それを残らず平らげる私の姿を見て、母は幸せを感じていたと思います。これは妻も同様で、元来の私は『私から食べるを除いたら何が残る?』くらいの食に執着する人間です。しかしALSにより私は「圧倒的な食欲」を失いました。

生きるためには口から食べることより優先することがあります。栄養は胃ろうから取り、喉頭分離により誤嚥リスクをなくして、稀に味見程度に口から食べてます。動けない・喋れない生活の中で、私は口から食べ続けることよりiPadで発信することや講演などの仕事に時間を割くようになりました。

しかしそれが今の私の自分らしい生き方なのです。母が今、私に対して出来ることなどなくて良いのです。もうすでに沢山のものをいただきました。元気でいて私の生き方を見守ってくれればそれで充分です。

『母さん、あなたの息子はALSでも父親も社長もやり遂げます!ちやんと長生きして見届けてください。』


この記事は、株式会社まんまる笑店代表取締役社長、恩田聖敬氏(岐阜フットボールクラブ元社長)のブログ「ALSと共に生きる恩田聖敬のブログ」2020年7月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください