かんぽ生命不適切販売事件に学ぶ 〜 社外役員を後押しするセカンドオピニオン

2020年07月28日 11:30

oldtakasu/写真AC

昨日(7月27日)の朝日新聞デジタルの有料版記事「『金融庁の逆恨みだ』かんぽ経営陣が逃した3度の機会」は、永くかんぽ生命不適切販売事件を追ってきた藤田記者の渾身の記事であり、何度も読み返しました(第三者委員会による追加報告書をもとに、取材された内容だそうです)。

不正販売問題が報告され始めた2016年11月に「幻の不正防止策」と言われた対策案が作成された時期、2018年4月にNHKクローズアップ現代で「かんぽ不正問題」がスクープされた時期、そして同年11月、金融庁から調査要請がなされた時期と、日本郵政グループは、経営陣が自主的に全容調査を行うことができた機会が3度ありましたが、経営陣は全容解明には動かなかった。ではなぜ自主的な対応ができなかったのか、とても考えさせられます。

こういった事件では、どうしても「後出しジャンケン」によって責任追及をしたくなります。そうではなく、当時の状況を冷徹に再現したうえで、たとえ周囲が「たいしたことではない」とか「すでに一生懸命やっているから様子を見ようではないか」といった意見が多数を占めていたとしても、「いや、この程度では済まない、もっと広範囲の調査が必要」と言い出せるかどうか。

空気を読まずに積極的な意見を述べることができるのは社外取締役さん、社外監査役さんくらいかもしれませんが、7月21日の読売新聞朝刊(経済面)にも記載のとおり、かんぽ生命の社外取締役の方々は情報を共有していなかったので、機能不全に陥っていたそうです(ちなみに昨日の日経夕刊1面記事「監査役会、昨年度は平均14回開催 内閣府令改正で開示」という記事によると、日本郵政の監査委員会は昨年28回も委員会を開催したそうです)。

しかし、いくら情報共有ができなかったとしても、さすがにNHKのクロ現のスクープを、社外役員の方々が「知らなかった」ということはなかったはず。いわば「情報共有」の端緒は存在していたわけですから、問題は社外役員自身がどこまで積極的に情報収集をしたのか、という点も問題視してよいのではないでしょうか。

ただ、丸腰で社内の取締役さんに「不正疑惑に関する判明事実を教えよ」と言っても、やはり問題の核心に迫れるような情報を入手することは困難です。したがって、社外役員さんのためには「コンダクト・ルール(顧客本位の企業姿勢)」で物事を考えることを支援するセカンドオピニオンが必要ではないでしょうか。

会社の顧問弁護士さんは、どうしても会社もしくは経営陣に有利な法的支援サービスを提供する傾向があります(もちろん、中立公正な意見を述べる方もいらっしゃるかもしれませんので、あくまでも「傾向」と言っておきます)。「会社の活動は、顧客の視点からはどう見えるか」といった立場でのセカンドオピニオンこそ、社外役員の勇気ある行動を実現させるためには必要だと思います。

もちろん社外役員だって無為に会社と揉めたくありません。「社内の役員との関係を良好に保ちたい」といった「ヤワ」な気持ちからか、どうしても社内の空気を読みたくなるかもしれませんが、自身の抱いた違和感が独りよがりのものなのか、それともやはり専門家の立場からも違和感を抱かれるのか、このあたりの判断を手助けしてくれる外部のアドバイザーがいれば、社外役員も自信を持って(自ら必要と判断する)情報提供を要求できるはずです。

昨日の日経朝刊「経済教室」では、私が懇意にしている山田仁一郎教授(大阪市立大学)の「社外取締役制度の課題㊦ 多様化だけでは機能せず」と題する論稿が掲載され、海外でのガバナンス研究も豊富な山田教授による「日本企業における社外取締役制度」に対する厳しい指摘が印象的でした。ガバナンスを機能させるためには、社外取締役の数もあるが、差し違えるほどの真摯さをもって物を言う人物が関わっているかがカギではないか、との意見はまさに山田教授のおっしゃるとおりです。

ただ、社外役員に「差し違えるほどの真摯さ」を持つだけの自信がどこから生まれるのか。それはひょっとしたら「世間知らずのピエロの放言」「独りよがりの成功体験」となり、企業価値を毀損させてしまうことにならないのか。私自身も含めて、多くの社外役員経験者が思い悩むところだと思います。会社が顧客本位の経営姿勢を貫くために社外役員を有効に活用するためにも、ここをなんとかクリアする必要があると思うのです。

もうすぐ策定される経産省「社外取締役の在り方に関する実務指針(仮称)」でも提言されるかもしれませんが、

コンプライアンス対応の強化など、内部統制システムの構築・運用という「守りのガバナンス」においても、社内の常識にとらわれない視点を取り入れることが強く望まれる(仮案19頁より)

のであるならば、社外役員が会社費用をもってセカンドオピニオンを入手することは積極的に推奨されるはずです。もうそろそろ、社外役員(社外取締役、社外監査役)を支える専門家の存在がクローズアップされても良い時期に来ているのではないでしょうか。かんぽ生命・ゆうちょ銀行事例などを読んでおりますと、本当に社外役員を活用すること以外に経営陣を自律的な行動に誘導できる方法はないのでは、と考えてしまいます。


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2020年7月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。

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