アメリカ大統領選挙の結果をどう見るか(中)(尾上 定正)

2020年11月12日 06:00

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2 一層深刻化した米国の分断

zimmytws/iStock

今回の選挙によって米国社会の分断がより深く、広く進行していることが明らかとなった。熱烈なトランプ支持者は銃で武装し民主党支持者集会に圧力をかけ、バイデン支持者も武装して対抗する構図が繰り広げられ、両者の暴力的な衝突の危険性さえ無視できない。選挙結果を青(バイデン、民主党)と赤(トランプ、共和党)で色分けした地図を見れば、東西の海岸州と中央の内陸州にハッキリと色分けされる。

地政学的になぞらえると、Rim land(沿岸)州とHeart land(中央)州の分断であり、対立軸は人種構成(移民の多い多様人種州と白人中心州)、産業構造(多国間関係重視と米国第一主義)、社会思想(リベラルと保守)等、様々に引かれる。

筆者が最も納得した対立軸は、都市(Urban)と田舎(Rural)の分断であり、接戦州は都市と田舎の両方が混在し、その州の中でも都市はバイデン、田舎はトランプという色分けが歴然とした。もちろん、このような単純化された対立構造の分析では、対立を超えて国民を統合する方策は導き得ない。

だが、対立が暴力を伴う分断に至れば、その傷を癒すのに一層の時間と宥和が必要となろう。そうしないためには、対立軸の一つ一つを丁寧に観察し、両者を融合させる具体的な施策を展開する他ない。そのような視点で参考となるのはフロリダ州の選挙結果であろう。

ハーバード大学歴史学部のアレハンドロ・デ・ラ・フエンテ(Alejandro de la Fuente)教授の分析では、マイアミ・デード郡は選挙登録人の3分の2をキューバ系アメリカ人が占め、民主党は2016年の選挙(ヒラリー・クリントンが30ポイントの差で勝利)の再来を期待したが、今回バイデン候補のリードは10ポイント以下に大幅縮小した。その結果、筆者もバイデン勝利か接戦と予想していたフロリダ州は早い段階でトランプ勝利が確定したが、教授の分析によれば、キューバ系に限らずその他のラテン系アメリカ人は、白人労働階級と似た投票行動を示しており、現政権の対キューバ政策との関係はほとんど無い。

信頼できる追跡調査によれば、ラテン系米国人の投票行動を左右したのは、経済、ヘルスケア、移民や治安等の主流の問題であった。ただし、トランプ政権はキューバ系米国人を組織的に味方につけており、それは民主党員を「社会主義者」と位置づけ、「共産主義」やニコラス・マドゥロ(Nicolás Maduro)ベネズエラ大統領のような独裁者に親和していると印象付けることに成功したからだと言う。

マイアミは大都市でありラテン系移民が多く、前述の対立軸を基準とすると濃い青色となる(2016年はその通りとなった)はずだが、結果は薄い青色となりフロリダ州全体のトランプ勝利(51.2%)に繋がった。これに寄与したのが現政権の主流課題の政策に対するキューバ系住民の支持の故か、あるいは民主党に対する情報戦の効果なのかは判然としないが、便宜的な対立構造を必要以上に重視することは事実を誤認する恐れがあり、建設的な議論を阻害する。民主党側もこの結果を分析し、教訓を導出する必要があると思われる。

3 新型コロナ禍の影響

今回の大統領選挙は、やはり新型コロナ禍の影響を除いて語ることはできない。選挙期間中を通じてトランプ大統領のCOVID-19対策は、両候補の重要論点として議論されてきた。選挙戦終盤にはトランプ大統領夫妻も感染し、投票日以降一日あたりの新規感染ケースが10万人を突破、6日には13万人に迫り、過去の記録を更新している。

民主党はトランプ政権のコロナ対策を大失敗と批判し、科学と専門知識を蔑ろにした結果、出さなくても済んだ多数の死者を出してしまったと糾弾してきた。さらにその被害は人種マイノリティや社会的弱者に不公平に圧し掛かるというヘルスケアの問題を指摘している。

これに対しトランプ大統領は、ウイルス拡大は中国の責任だとして批判をかわし、コロナ禍よりも経済活動の再開を優先させた。その結果、雇用状況は大きく改善し、2020年第3四半期(7~9月)の実質GDP成長率(速報値)は前期比年率33.1%となり(米国商務省が10月29日に発表)、市場コンセンサス予想の32%を上回り、統計開始(1947年)以来最大の伸び率を記録した。米AP通信 VoteCast surveyの調査によれば、米国が直面する最も重要な課題として41%の投票者がパンデミックを挙げ、その内の73%がバイデンに投票している。

2番目の重要課題として28%が経済と雇用を挙げ、その内81%がトランプに投票している。経済とコロナ対策の重視度が両候補支持者で明確に分かれる結果となったことが分かる。

さらに、米国公共ラジオネットワークであるナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)の調査によれば、トランプ大統領はコロナ禍の死者率が高い多くの地域で得票率を伸ばしている。別の調査の結果では、大統領に必要な資質として71%の有権者が権威主義的人格を挙げ、強い大統領を求める傾向が明示された。

これはNPR調査の結果にも符合し、マスクを着用せず、自らの感染からも短期間で復帰したトランプ大統領のパフォーマンスがトランプ支持を押し上げた可能性が高い。新型コロナ禍は郵送による期日前投票と不在者投票を大きく増加させ、開票集計の遅れとトランプ氏が指摘する不正(根拠は示されていない)の一因ともなった。

パンデミックは前述の通り、ますます拡大する傾向を見せており、本格的な冬の到来とインフルエンザ流行の可能性と合わせ、政権移行間のコロナ対策と経済活動の両立がどう図られるのか、引き続き最重要の問題となる。トランプ大統領が約束したワクチンの開発動向にもよるが、バイデン次期大統領に対しコロナ対策で目に見える結果が求められることは間違いないであろう。

(下)に続きます

尾上 定正(おうえ・さだまさ)
1959年、奈良県生まれ。1982年防衛大学校卒業(管理学専攻)。1997年米国ハーバード大学ケネディ大学院修士課程修了、2002年米国防総合大学戦略修士課程修了。統合幕僚監部報道官、第2航空団司令兼千歳基地司令、統合幕僚監部防衛計画部長(2013年空将昇任)、航空自衛隊幹部学校長、北部航空方面隊司令官を経て、2017年、第24代航空自衛隊補給本部長を最後に退官。現在、JFSS政策提言委員、企業アドバイザー、2019年7月からハーバード大学アジアセンター研究フェローを兼任。


編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2020年11月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。

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