検証:バイデン氏は「ほぼ全ての主要な外交問題で間違っていた」のか?

2020年12月01日 06:01

外交に強いバイデン

次期合衆国大統領のバイデン氏の一番の強みは、外交であると言われている。彼が21世紀初頭のアメリカ外交政策の中心に居続けたことを考えると、そうとも言えるのかもしれない。

オバマ政権の副大統領として安倍前首相と握手を交わすバイデン氏(2015年9月、外務省サイトより)

上院議員時代には上院外交委員会の委員長として、イラク戦争の開戦決議を米議会で採択されるために大きな役割を担った。また、彼がオバマ大統領の副大統領に選ばれた最も大きな理由のひとつは、外交経験が乏しいオバマ大統領を補佐する人物として適格だと思われたからである。そして、8年間続いたオバマ政権の下で決定された重要な外交政策に影響力を及ぼしてきた。

その一方で、批判者は、バイデン氏の外交経験が必ずしも彼が正しい外交政策を推進してきたことの証明にならないとする。そうした批判者が頻繁に引用するのが、元国防長官ゲーツ氏の言葉である。

ゲーツ氏は自伝で、バイデン氏は「嫌うことが不可能な人物」だと前置きしたうえで、「彼がほぼ全ての主要な外交問題で間違えた判断をしていた」と痛烈に批判していた。

しかし、筆者はこのゲーツ氏の批判を金科玉条としてバイデン氏の外交実績を批判することに対しては懐疑的である。

その前にゲーツ氏はどうなのか?

筆者がそう思う第一の理由はゲーツ氏が人のことを言えないからである。

ゲーツ元国防長官(国防総省サイトより)

彼はCIA時代、冷戦末期のソ連の指導者であったゴルバチョフ氏を「教条的な共産主義者」、「彼がソ連の指導者になったところでソ連の外交政策は実質的には変わらない」と評価していた。

だが、実際はどうであったか?ゴルバチョフ氏は外交では冷戦を終結させることに尽力し、内政面では民主化、経済の自由化を推し進め、最終的には改革に抵抗する党内の強硬派のクーデターに遭い、政権を手放すことを余儀なくされた。

実際のゴルバチョフ氏が行った政策の結果を見てみると、彼はゲーツ氏が分析したような人物ではなく、改革志向を持ち、対立を緩和させたいハト派であったことが分かる。

ゴルバチョフ氏に関する情報が少ない中でその性格、志向を分析することは、ゲーツ氏のみならず、誰にとっても難しいことではあったと思う。

だが、それにも関わずゴルバチョフを断定的に評価し、自身の提言のせいで冷戦終結を不可避にする可能性があったことを考えると、ゲーツ氏にバイデン氏の外交実績を全否定する資格があるのか、疑問符が付く。

世論の声に敏感な政治家

バイデン氏の外交実績は全て間違いだったというゲーツ氏には賛同できないが、では全て評価できるかと言えば、それは違う。

結果的に無いことが証明された大量破壊兵器の存在をほのめかすフセイン政権を転覆させることを積極的に主張してイラク戦争の開戦を主導し、アメリカの権威を失墜させた過去は彼が背負わなければいけない十字架である。

また、中国の潜在的脅威を軽視していた過去も、現在の中国の言動を考えるとナイーブであったとも言える。

しかし、彼は長い外交経験の中で一貫していたことがある。世論の声を反映したうえで外交政策に関して自分の主張をしていたことである。

例えば、最初に上院議員に当選した時、反ベトナム戦争を主張し、泥沼化するベトナムでの戦争に批判的になっている世論の後押しを受けた。そして、彼が強固に主張したイラク戦争のみならず、アフガニスタンでの戦争も、同時多発テロを受けて復讐心に燃える世論の支持を受けた上での主張であった。

そして、世論の声を適格に判断し、それに合わせることができる柔軟性があることが、中道派である、急進的な人物ではない、親しみやすい、という評価につながっている要因なのかもしれない。

今のアメリカ世論の声とは?

最後に、国民の声に配慮したバイデン氏の外交政策に対するアプローチが直面するジレンマについての筆者の考察を少し述べたい。

バイデン氏が世論の声を反映する大統領になることはアメリカ国民としては望ましいが、アメリカに安全保障において依存している日本としては危惧するべきことである。

現在、アメリカは共和党、民主党問わず、孤立主義に向いている。終わりが見えない中東での紛争、度重なる経済危機、そして顕在化する経済格差。それらが影響してアメリカでは停滞感が漂っており、海外にまわしているリソースを国内に戻すことを要求する世論が強くなっている。世界の警察となって外国を助ける前に、自国民に対して優先的に手を差し伸べるべきだという声が強くなっているのだ。

世論の声に敏感なバイデン氏は、トランプ氏によって損なわれた同盟関係を再構築すると示唆しているが、内向きになっているアメリカ国民の声を無視できないであろう。

さらなるコミットメントを要求する同盟国の声を優先するのか、「全てのアメリカ人」のために働くという自分の約束を守るのか。

国内外からの要求に対してバイデン氏は、難しい決断を迫られている。

鎌田 慈央(かまた じお)国際教養大学 3年
徳島県出身。秋田県にある公立大学で、日米関係、安全保障を専門に学ぶ大学生。2020年5月までアメリカ、ヴァージニア州の大学に交換留学していたが、新型コロナウィルスの感染拡大により帰国。

 

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