FFP2マスク着用義務化:マスクが変える、欧州社会の風景

オーストリアでは25日から新型コロナウイルス規制の追加措置としてスーパーや地下鉄など公共運輸機関を利用する場合、高品質のフィルタリングの医療用、FFP2マスク(ヨーロッパが定めたEN規格適合マスク)の着用が義務化される。隣国ドイツでも同様だ。

IMG_20210123_093803 (2)

▲オーストリア政府が65歳以上の国民にプレゼントした中国製のFFP2マスク(2021年1月23日、ウィーンにて)

中国武漢発の新型コロナ感染が欧州に上陸した直後、ウィルス専門家たちは一般マスク(家庭用マスク)の着用を勧めたが、「マスクはアジア文化であり、欧州社会ではマッチしない」と拒絶する欧州人が多かった。コロナ禍が1年以上長期化し、多くの感染者、死者が出てきた結果、マスクの着用は欧州社会でも定着してきた。そして今、FFP2マスクの着用が義務化されるわけだ。

これまではマスクと言っても簡易なもので、「くしゃみをした場合、相手に影響を及ばさない」程度で、相手からのウィルスを防止することは出来ない簡単なマスクだった。しかし、昨年末から今年に入り、英国発のウィルス変異種(B1.1.7)が発生、新規感染者が急増し、ロックダウン(都市封鎖)しても新規感染者数が減少しないために、他者からの感染を防ぐため、簡易なマスクではなくFFP2のマスクが必要となってきた、というわけだ。ウィルス専門家が「FFP2マスクを着用すれば、かなりの確率で感染を防ぐことができる」と説明したこともあって、FFP2マスクへの需要はここにきて急増してきた。

オーストリアでもFFP2マスク着用の義務化を控え、FFP2を買う国民が増えた。その結果、 トイレットペーパーの時と同じように、FFP2マスクはどこのスーパーでも売り切れ。10枚入りのFFP2マスクの袋を2袋買おうとした客は会計で「1人1袋まで」と注意されて、抗議する、といった場面が夕方のニュース番組で報じられていた。25日からFFP2マスクを着けていないと、買物はできないうえ、地下鉄にも乗れなくなるから、国民もFFP2マスクの確保に必死になるわけだ。

安倍晋三前首相は国民にマスク2枚を無料で提供する政策を実施したが、オーストリア政府もその政策を真似て、65歳以上の高齢者には10枚のFFP2をプレゼントすることになった。連邦政府からのプレゼントを受け取った市民によると、FFP2マスクは中国製だ。オーストリア側はFFP2の需要拡大を受け、国内生産を奨励し、FFP2を製造する企業を支援中だ。もう少し時間が経過すれば、国産FFP2マスクが手に入るようになるという。

ちなみに、1枚59セント(約75円)で統一価格でスーパーでは売っているが、薬局ではその数倍の値段だ。いずれにしても、FFP2マスクは通常のマスクよりかなり高価だ。そのうえ、24時間使用すれば感染防止の効果がなくなるから、新しいマスクに交換しなければならない。貧しい労働者やホームレスはとてもFFP2マスクを買って着用することは難しい。そこで政府は低所得者やホームレスには無料で提供する方針という。

新しいことを決めれば、それに関連した新しい問題が生じる。その一つは、髭を生やしている男性がFFP2マスクを着用する場合、髭(特に頬髭)を剃らないとダメという問題が浮上してきた。FFP2を着用しても髭があれば隙間ができ、そこからウィルスが侵入してくるという理由から、「FFP2マスク着用前には髭を剃るように」とウィルス学者が助言。それに対し、髭を生やしている男性から「マスクのために髭は剃れない」といった苦情がソーシャル・メディアで溢れている。

オーストリア国営放送は散髪屋で髭を生やしている男性とウィルス専門家がFFP2を着用する際の注意事項などを実演する番組を放映していた。口髭はいいが、頬髭は剃ったほうがいいという。イスラム系やユダヤ人の男性には髭を生やしている人が多い。FFP2マスク着用のために髭を剃るようにいわれてもあっさり「そうですか」といって納得するのは難しいだろう。

Ranta Images/iStock

欧州ではコロナ感染の拡大を受け、マスク着用が義務化されてきたが、通常のマスク着用の時も極右派関係者が強く反対し、コロナ措置に抗議してマスクを着けずに抗議デモを行ってきた。FFP2マスク着用が義務化になれば、イスラム系、ユダヤ系の“髭男たち”がマスク反対の抗議デモに加わるかもしれない。

日本の街の風景を放映しているYoutubeの動画を観ていると、どの街でも日本人は路上でもほぼ100%マスクを着用している。ただし、FFP2マスクを着用している日本人はまだ少ないのではないか。欧州ではマスクは店舗に入って買物する時や地下鉄に乗る時にしか着用しない。散歩する時マスクを着ける人はほとんどいない。地下鉄から下車したら、直ぐにマスクを外す人がほとんどだ。

マスクは欧州社会の街の風景を変えつつある。コロナ・ワクチン接種の拡大、そして集団免疫が実現するまで、マスクを手放せなくなってきた。一般マスクからFFP2マスクへの移行がスムーズに進むことを願う。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年1月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。