日本の「水際対策」は機能している

オミクロン株の発見で「全世界の全外国人の入国拒否」の措置が導入された。大学では滞留していた国費留学生の来日が開始されていたところだった。その他の分野でも、煩雑な手続きをへて不可欠の招聘をアレンジしていた関係者は落胆するとともに、対応策に追われているところだろう。

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岸田首相によれば、オミクロン株の正体が不明であるために、予防的措置として1か月の時限的措置として導入したものだという。私としては、この緊急措置が1カ月で終わることを祈っている。

日本の「水際対策」は、どうも評判が良くないようだ。「デルタ株の際の水際対策の不手際が感染拡大を許した」という定説になっている。確かに2020年初めの新型コロナの蔓延初期において、日本の入国管理は、他国に比して後手後手ではあった。本格的な入国規制を導入してみると、通常の人員体制では全く作業が追い付かなかったために、2020年3月下旬から数か月にわたって成田空港などにおける検疫体制の管理に自衛隊が派遣されたこともあった。

それから一年半以上の月日が流れている。私は新型コロナ蔓延の初期段階から人の移動の回復を図るために、空港税の大幅な増額などを視野に入れても、検疫体制の強化を図るべきだ、と書いてきている。

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現在の日本の検疫システムは、既存の施設をやりくりさせ、外注企業の人員を動員して、何とか回している。そのため一日あたりの受け入れ人数に上限を設けざるを得ない。今回の措置を契機にして、あらためて検疫体制の充実を考えていくことは、段階的に人の移動を回復させていくためにも重要になってくるだろう。

とにかく徹底して入国を禁止するのが正義だと考えているような鎖国派の方々も目立つが、帰国してくる日本人の入国も禁止するのは、憲法上の人権規定の問題になるし、邦人保護の趣旨からすれば本末転倒な事態だ。それ以前に、入国規制で永遠にウィルスの侵入を防ごうという考えは、新型コロナの感染性を無視した非現実的な考えである。社会経済活動を根本的に阻害させ、しかも不当な偏見も助長させることによって、日本の国力を著しく減退させる自殺的な考えでもある。

入国規制は、一時的な措置にすぎない。体制を整えるための時間稼ぎである。時間稼ぎをしている間に、オミクロン株も視野に入れた検疫体制を整えることが、政策的目標である。

日本への入国者数を段階的に増加させた10月・11月において、日本での新規陽性者数の増加は見られなかった。搭乗前、到着時、そしてその後も強制待機期間中はもちろん自宅待機の場合でも追加的なPCR検査を繰り返し行っていく仕組みは、潜在的な陽性者をあぶりだす厳しい仕組みである。ワクチン接種者にも長期の待機と繰り返しのPCR検査を求める仕組みは、他国と比しても厳格だ。

かつて「全国民に繰り返しPCR検査を」と主張していた方々が、鎖国派になっているのは、辻褄があわない。なぜなら今の仕組みで日本人全員が空港検疫を通過するなら、日本人全員が複数回のPCR検査を受けることになるからだ。

「煽り系の専門家」と結託した反政府系のメディアや言論人が、「人と人との接触を8割削減せよ」、「十分な補償をしてロックダウンせよ」、「数十兆円を投入して全国民PCR検査を繰り返し実施せよ」、「国産ワクチンを早期に開発して迅速に全国民に接種せよ」、と主張したうえで、「オリンピックを中止して外国人の入国を禁止せよ」、と叫んでいた。そして空港で陽性者が見つかったというニュースが出るたびに、「日本の新型コロナ対策は破綻している」、と叫んだ。

しかし結局、オリンピックではクラスターは生まれなかった。その後も外国人や帰国者が起点になったクラスターが生まれたという事件も確認されていない。むしろ陽性者を的確に識別していたのである。日本の検疫システムは、地味ながらも機能している。
未知のオミクロン株に対して早めの予防措置をとることには妥当性があるとして、それが鎖国こそが正義であるといった破綻した議論につながらないことを祈る。

必要なのは、永遠の外国人撲滅や渡航者狩りの夢想ではなく、優れた検疫体制の確立であり、維持であり、拡大である。