フェアユース導入論議に国家戦略の視点を - 城所岩生

2009年10月29日 10:00

国際大学GLOCOM客員教授(米国弁護士)/城所岩生

 知財本部が6月に発表した知的財産推進計画2009は、デジタル・ネット時代に対応した知的財産権制度を整備する施策の一環として、権利制限の一般規定(日本版フェアユース規定)の導入を掲げ、今年度中に結論を得て、早急に措置を講ずるとしている。フェアユースとは、使用する目的が公正なものであれば著作物の複製をしてもよい、という、包括的な権利制限規定である。これを受けて文化庁の文化審議会は、著作権分科会の法制問題小委員会で検討中である。導入論議には以下の理由で、国家戦略の視点が必要と思われる。


1.検索サービスの失われた15年
 検索エンジンは日本でも米国と同じ1994年に誕生した。フェアユース規定のないわが国では、著作権侵害のおそれを回避するため、事前に検索するウェブサイトの了解を取る、オプトイン方式が採用されている。これに対して、米国では検索されたくない場合には、その旨を意思表示すれば、検索を技術的に回避する手段を用意する、オプトアウト方式で対応した。検索サービスは情報の網羅性、包括性が命であるだけに、両者の差は決定的で、案の定、わが国の検索サービス市場では現在、日本の著作権法が適用されない米国内にサーバーを置く、米国勢が90%以上のシェアを占めている。

 遅まきながら事の重大さに気づいた政府は、2009年の著作権法改正で個別権利制限規定を追加し、検索サービス事業者は日本国内にサーバーを置いてサービスを提供できるようになった。しかし、束になっても10%以下のシェアしかない国内勢が巻き返しを図るのは容易ではない。失われた15年はあまりにも大きい。

 しかも、今回の著作権法改正で認められるのは検索エンジンのサーバーへのキャッシュ(一時保存)までであって、米国の非営利団体インターネット・アーカイブが運営しているウェイバックマシンのようなホームページの永久保存は認められない。われわれの過去のホームページを見るのも米国の民間団体のサービスに頼らざるを得ないのである。

2.フェアユース規定の有無が明暗を分ける日米のネットビジネス
 検索サービス検索サービス以外にもフェアユース規定の有無が、日米で明暗を分けた新技術・新サービスの実例は枚挙に暇がない。これについては10月14日の日経新聞「経済教室」への寄稿で代表的な例を挙げて紹介したので、ご関心ある読者は参照されたい。

3.書籍デジタル化への対応
 グーグルは図書館の書籍などをスキャンして、デジタル化し、ネットで検索・閲覧できるようにする「グーグル・ブック検索サービス」を4年前に開始した。これに対し、作家協会などが訴訟を提起したが、和解案が1年前に発表された。和解案は米国での訴訟の解決策なので、その効力は米国内に限られるが、将来的にグーグルはその恩恵を世界に広めたいとしている。国会図書館も2009年の著作権法改正で、著作権者の許諾なしにデジタル化できる対象は広がったが、権利者や出版社などとの合意で、デジタル化しても館外には出せない。日本への参入が実現した場合に、ネットで自宅からでも閲覧できるグーグル・ブック検索サービスと、地方住民のためにせめて公共図書館にネット配信することすらままならぬ、国会図書館のデジタル化計画とのギャップはあまりにも大きい。

 和解案については、集団訴訟であること、ベルヌ条約で加盟国の著作権者にも影響が及ぶことから、条約加盟国の著作権者は9月8日までに和解案に不参加の場合は通知すること、意見があれば提出することを求められた。全世界から寄せられた400以上の意見の内訳は、10月20日付け日経ネット時評への寄稿(http://www.nikkeidigitalcore.jp/archives/2009/10/post_208.html)のとおり、特に海外の権利者からの反対が多かった。裁判所の求めに応じて米国政府も意見を提出した。米政府は、現在の形での和解案は却下すべだきとしつつ、和解案に外国の権利者の利益などを取り込んだ修正を加え、和解成立に導くよう判事に要請している。

 90年代にIT(情報技術)は米国経済をけん引した(詳細は10月26日付け日経ネット時評への寄稿参照、http://www.nikkeidigitalcore.jp/archives/2009/10/post_209.html)。「夢よ再び」で、今回もグーグルの画期的なブック検索サービスを世界に広めたいというしたたかな国家戦略が透けて見える。

 わが国も情報大爆発時代の社会インフラ化した検索サービスの育成、ネットビジネスの支援、書籍デジタル化への対応など国家戦略の視点でフェアユース導入を議論すべきである。

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