不動産ファンドのレバレッジの功罪

不動産ファンドの多くは、投資効率を上げるために、借金をしている。いわゆるレバレッジである。さて、信用の収縮が起きたら、レバレッジのある不動産ファンドには、何が起きるか。


不動産向け融資の場合、債権の不良化は、二重に生じやすい。第一に、価格の下落による担保価値の低下、第二に、賃料収入減少による元利金弁済余力の低下である。債権の不良化は阻止しなければならないから、銀行等の貸し手は、融資政策を大きく変更してくる。それが信用の収縮である。

信用の収縮ということは、新規の融資が抑制されると同時に、既存の融資の回収が急がれるということである。しかし、借り手の立場からいえば、こういうときには、弁済余力がなく、逆に、金融的支援が必要なはずである。これは、金融の解き得ない矛盾である。この構造矛盾は、よく、「銀行は、雨が降ったら傘を取り上げる」と表現されている。しかし、これは、金融の本質だから、仕方ない。

不動産ファンド向けの融資は、短期間で期日をきる場合が多い。ただし、期日がきても、通常は、債権者は借り換えに応じる。そうすることで、実質的に長期の融資にしているのだ。このような連続的な借り換えの仕組みをとるのは、もちろん、債権者の利益を守るためである。環境変化に応じて、借り換え時に対応を工夫する自由度を確保しているのである。理論的に、その分、債務者側は不利なのである。

借り換えのときに、不動産市況が悪化していて、債権者が満額の借り換えを渋ったらどうなるか。例えば、融資額を削減してくるとか。このとき、一般に、ある銀行が貸さないときに、他の銀行が容易に貸すことはない。だから、不足額を別な貸し手から調達するのは難しいであろう。

こうなると、最悪は不動産を売って弁済する方法しかない。このとき、多くの場合、安く売ることになって、ファンドのエクイティの投資家にとっては、損失になりやすい。売るのを避けるためには、エクイティを増やすことになるが、この場合でも、既存のエクイティの投資家は、希薄化の損失を受ける。

借り換え時機の到来のほかに、融資条件への抵触の可能性もある。例えば、担保価値の維持条項が取り決められていれば、担保不動産の価格が下がれば、追加担保が必要になるか、そうでなければ、債務の一部弁済が生じる。このような場合も、先ほどの借り換えができないときと同様な効果をもつ。

利払い等の不履行で、期限の利益を喪失すれば、担保処分権が貸し手に移転してしまう。貸し手は、担保掛目の範囲内で売却できれば損はないが、エクイティの投資家は、非常に大きな損失を受ける。

単に不動産を投資対象とする限り、つまり、レバレッジを用いない限り、十分に稼動している不動産投資は、収益を生み続ける。収益を生み続けるからこそ、市況の循環を乗り越えて長期に保有できる。長期に保有して、損失になる可能性は小さい。これが、本来の不動産投資である。

レバレッジを使うから、市況変動の波のなかで、投資家にとって不利な状況での強制的な売却の可能性が生じて、損失につながるのだ。

レバレッジが全くいけないということではない。不動産は安定的なキャッシュフローを生むのだから、融資を組み易い。故に、適切なレバレッジを排除する理由はない。要は節度である。節度を規定するのは、収益率は高ければ高いほうがいいという発想ではなく、安定的にキャッシュフローを長期的に享受することを目的とする保守的哲学である。

その保守主義が運用の長期継続性をもたらし、長期継続するなかで、不動産価格上昇の機会をも適切に捉えることができるようになるのだ。保守主義は、低い収益率に満足することではない。保守主義とは、収益率の高さではなく、収益率の安定性、収益率の質を求めることが、結果的に収益率の高さにつながるという信念のことである。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
HC公式ウェブサイト:fromHC
twitter:nmorimoto_HC
facebook:森本紀行