英国ロイヤル・バレエのスター・ダンサーたちによる夢のガラ公演「ロイヤル・バレエ・ガラ」を東京文化会館で鑑賞。クラシック、モダン、コンテンポラリーの振付をロイヤル・バレエの選り抜きのダンサーたちが踊り、世界の超一流カンパニーの「伝統」と「革新」を見せてくれた。
Aプログラムでは『ジゼル』第2幕のパ・ド・ドゥを、ベテランのプリンシパル、サラ・ラムとポルトガル出身のプリンシパル、マルセリーノ・サンペが踊った。サラ・ラムの静謐な表現と清楚で謹厳な甲に始終見とれる。哀しみの世界に漂うジゼルの幽玄な姿が残像として残り、重力を感じさせない動きのひとつひとつが、バレリーナの揺るぎない境地を思わせた。
マクミラン版『ロミオとジュリエット』のバルコニーのパ・ド・ドゥは、高田茜さんとアレクサンダー・キャンベルが踊った。ロミオを見つけた瞬間のジュリエットの爆発しそうな胸中を、踊り出す前の演技で見せた高田さんの表現力に圧倒される。心臓の音が客席にまで聴こえてきそうだった。プリンシパルのアレクサンダー・キャンベルはおっとりとした育ちのいい雰囲気のダンサーで、跳躍にもう少し高さがあると理想的なのだが、ロミオのような声楽でいうテノール的な役が素晴らしく似合う。
マクミラン版のバルコニーのパ・ド・ドゥは無茶な部分も多く、男女の踊りのマニエリスム的(?)な振付だと思っていたが、とても自然で美しかった。そしてやはり、ロミジュリはプロコフィエフの音楽がいい。情熱的なラブロマンスで、観る者を夢中にさせるバレエだった。
アレクサンダー・キャンベルは、フランチェスカ・ヘイワードとの『マノン』寝室のパ・ド・ドゥでも活躍。安定感があり、清楚で初々しく好感が持てた。フランチェスカ・ヘイワードはセザール・コラレスとR・シュトラウスの歌曲『明日』に合わせた抒情的なコンテンポラリーも踊り、こちらも優美で、心地よく張り詰めた雰囲気があった。
『海賊』のパ・ド・ドゥはAプログラムのハイライトのひとつで、ヤスミン・ナグディとセザール・コラレスが花火のようにめざましいパフォーマンスを見せた。コラレスは2017年のイングリッシュ・ナショナル・バレエの来日公演でも『海賊』のアリを踊りプリンシパルに昇格したが、ロイヤルに移籍していよいよ眩しさを増した感が。今、ダンサーとしての充実期なのだろう。ヤスミン・ナグディとの息もぴったりで、連続フェッテやジャンプでは大きな歓声が湧く。二人ともスーパースターのオーラを振りまいていた。
『白鳥の湖』のパ・ド・ドゥでは、ファースト・アーティストの佐々木万璃子さんがファースト・ソリストで来期からプリンシパルに昇格のウィリアム・ブレイスウェルと共演し、フレッシュで優美なオデットを披露。ひとつひとつの型がとても綺麗で、今後の急成長が期待される。ブレイスウェルもとても美しい男性ダンサーだ。
Aプログラムでは古典とコンテンポラリーの間に3つバランシン作品が入り、今さらながらバランシンという振付家の天才性を実感した。プリンシパルの平野亮一さんと、大スターのマリアネラ・ヌニェスが踊った『アポロ』のパ・ド・ドゥは、女性ダンサーの究極的な美を追求したバランシンの美学を実感でき、マリアネラの磨き抜かれた身体の美しさを支える平野さんのサポートが頼もしかった。ストラヴィンスキーの曲が理想的なバレエ音楽に聴こえ、どんなコンテンポラリーよりもシャープな前衛性を讃えている作品に見える。
高田茜さんとマルセリーノ・サンペが踊った『ジュエルズ』の「ルビー」も、音楽はストラヴィンスキーで、蠱惑的な女性ダンサーの動きに目が釘付けになった。フルで見ると、本当にサイケデリックでディズニー・アニメのようなバレエなのだが、これも是非ロイヤル・バレエで全編(『ダイヤモンド』『ルビー』『エメラルド』)を見たいと強く思った。この演目ではピットにピアノの生演奏も入り、二人のピアニストのよる見事なストラヴィンスキーを堪能した。
ラストもバランシンで、マリアネラ・ヌニェスがファースト・ソリストのリーク・クラークと、『チャイコフスキー・バ・ド・ドゥ』を踊り、華やかなリフトの連続に天国に誘われる心地だった。マリアネラの身体性の高さ、コケティッシュで優雅な美しさ、太陽のような輝きがただただ眩しい。バランシンがこの踊りを見たら何と言うだろう…媚びたところが全くない、女神のようなバレリーナで、男性ダンサーはバランシンの忠実な使途のように女性を支えた。
再びコロナ陽生者が急増する直前の公演で、今まで中止が続いていた海外のカンパニーがここから続々と来日すると思われたタイミングだった。2023年にはロイヤル・バレエ団での来日公演も予定されている。ベテランのサラ・ラムとマリアネラは今まさに咲き誇る大輪のバラで、フランチェスカ・ヘイワードとヤスミン・ナグディ、高田茜さんもこの時期に観ておきたい名花。感染症の鎮静化を願いつつ、ガラではバレエが放つ生命力と癒しのパワーを改めて実感した。
7月17日に鑑賞したBプログラムも素晴らしく、両日とも客席は満席近かった。スタンディングの盛大な喝采が、バレエファンが海外カンパニーの公演をいかに切望しているかを伝えていたように思う。