中央自動車道の笹子トンネルで天井板が崩落した事故、さて、施設管理者の責任は、どこにいってしまったのか。施設の所有者に責任があるならば、責任の所在は、独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構にあるはずだが。
機構は、2005年10月1日に、旧道路関係4公団が廃止されて6社の高速道路株式会社(東日本、中日本、西日本、首都、阪神、本州四国連絡)が設立されたときに、約40兆円という巨額な債務と道路施設を承継する目的で、設立された。機構の機能は、道路施設を高速道路各社に貸し付け、その賃料収入を債務の弁済に充当することである。
従って、笹子トンネルを含む中央自動車道の施設全体は機構が所有するものである。しかし、施設の維持管理責任の所在は、高速道路会社にある。高速道路施設の賃貸契約の前提として、機構と各高速道路会社は協定を締結し、責任の配賦が定めている。そのなかで、「会社は、道路を常時良好な状態に保つように適正かつ効率的に高速道路の維持、修繕その他の管理を行い、もって一般交通に支障を及ぼさないように努めなければならない」とされているので、施設の維持管理責任は、高速道路会社にあることになるのである。
しかしながら、改修に要する費用は、施設に対する追加的資本支出になるので、当然に、施設所有者である機構に帰属させなければならない。実際に、改修が行われて、改修費が資産の帳簿価格に追加されるときは、その増加分が、改修費用に対応する債務とともに、機構へ移転される。故に、協定でも、「会社は、高速道路の維持、修繕その他の管理の実施状況について、毎年度、機構に報告することとし、機構は、必要に応じて実地に確認を行うことができるものとする」とされているのである。
協定上は、確かに高速道路会社に施設の維持管理責任があるのだが、改修に要する財源は、事実上、機構が握っているのだから、当然のこととして、施設所有者である機構にも責任がある、即ち政府にも責任があるということであろう。
ここで、道路建設に関して、そもそもの建前というか、基本前提を確認しておこう。高速道路も道路であるから、道路は本来道路管理者に帰属するのが原則とされている。本来道路管理者というのは、国道、県道などというように、道路ごとに定まっている本来の管理者である国や地方自治体のことである。現在の機構の立場は、本来道路管理者に替わって、高速道路に関する公的権限を行使するというものなのである。
機構が本来道路管理者に替わって高速道路施設を保有しているのは、その裏に債務があるからである。機構の目的は、直接的には債務の弁済であるが、その弁済の最終目的は、高速道路施設を本来道路管理者に無償譲渡することなのである。実は、現在の高速道路が有料であることの根拠は、高速道路会社が機構に対して道路施設の賃料を払わなければならないためで、また機構が賃料を課すのは、機構が債務の弁済をしなければならないからである。つまり、債務完済後に高速道路が本来道路管理者に譲渡されれば、高速道路は普通の道路と同じように無料になるということなのだ。
今回の事故で私が最初に感じた嫌な予感、的中間違いなしの予感は、事故の責任の全てを中日本高速道路に押し付けて、トンネル施設所有者である機構(即ち政府)の責任が問われることのないように、政府は立ち振る舞うであろうということだった、ちょうど、原子力事故の責任を東京電力に押し付けたように。案の定、今に至るも、政府責任が追及されるような気配は全くない。
しかし、本来道路管理者に替わって高速道路に関する公的権限を行使するという機構の目的からすると、その公的権限の行使の手先となっている中日本高速道路の責任に対して、原権限の行使者である機構(最終的には政府)の責任がないなどということは、あり得ないことだと思われる。
今回の事故の最大の問題点は、施設管理責任の所在を曖昧にしておくことが、施設を危険なものに放置させることを招きやすいことである。表面的な債務の削減と、建前としての高速道路の本来道路管理者への帰属と無料化のために、維持管理が疎かになって、高速道路が危険なものになっていくというのでは、本末転倒も甚だしいものといわざるを得ない。
森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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